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  1. たび幻記/

石が語る古代の環 ― イギリス・エーヴベリー空想旅行記

空想旅行 ヨーロッパ 北ヨーロッパ イギリス
目次

はじめに

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

エーヴベリー。この名前を口にするだけで、なぜか心の奥底から古い記憶が蘇ってくるような気がする。ウィルトシャー州の緑豊かな丘陵地帯に横たわるこの小さな村は、世界最大級の新石器時代の石の円環に包まれている。ストーンヘンジの北約30キロメートルに位置するこの場所は、観光地としてはそれほど知られていないが、その分だけ静寂と神秘に満ちている。

紀元前2600年頃から建設が始まったとされるエーヴベリーの石の円環は、直径約340メートルという壮大なスケールを誇る。外側の大きな円の中に、さらに二つの小さな円が配置され、全体で100個以上の巨石が配されていたと考えられている。現在でも27個の立石が当時の姿を留めており、その間を縫うように現代の村が息づいている。

ここは単なる古代遺跡ではない。石と人が共生する、生きた歴史の舞台なのだ。村人たちは5000年前の巨石の隣で洗濯物を干し、子どもたちは古代の祭壇の周りで遊んでいる。時の流れが緩やかに感じられる場所で、私は3日間を過ごすことにした。

1日目: 時間が止まった村への到着

ロンドンのパディントン駅から電車でスウィンドンへ、そこから路線バスに揺られること約1時間。午前11時頃、私はエーヴベリーの村はずれに降り立った。バス停から歩き始めてすぐ、目の前に巨大な石が立ちはだかった。これがエーヴベリーストーンサークルの外縁部だった。案内板もなく、柵もない。ただそこに、悠然と石が立っている。

その石に近づき、手のひらを当ててみる。ざらざらとした表面は冷たく、5000年という時の重みを感じさせた。サーセン石と呼ばれるこの砂岩は、近くのマールボロ・ダウンズから運ばれてきたもので、一つ一つが数十トンもの重量がある。古代の人々はどのようにしてこれらの巨石を運び、立てたのだろうか。

午前中は村の中心部を歩いて回った。エーヴベリーの不思議なところは、古代の聖地と現代の生活が自然に溶け合っていることだ。16世紀に建てられたレッド・ライオン・パブは、石の円環の中央に位置している。世界でも珍しい、古代遺跡の真ん中にあるパブだ。

昼食はそのレッド・ライオンで取ることにした。茅葺き屋根の建物に足を踏み入れると、低い天井と古い木の梁に囲まれた温かな空間が広がっていた。地元産の羊肉を使ったシェパーズパイを注文し、地ビールのワドワース6Xと一緒にいただく。窓の外には立石が見え、まるで古代の神々と食事を共にしているような不思議な感覚に包まれた。

午後は村の南側にあるエーヴベリー・マナーとその庭園を訪れた。16世紀に建てられたこの荘園は、現在はナショナル・トラストが管理している。石造りの美しい建物と、その背後に広がる幾何学的に設計された庭園は、古代の野性的な石の円環とは対照的な、人工的な美しさを醸し出していた。庭園を歩きながら、異なる時代の美意識が重層的に折り重なるエーヴベリーの魅力を実感した。

宿泊先は村はずれの小さなB&B、ザ・オールド・ヴィカレッジだった。19世紀の牧師館を改装した建物で、石造りの外壁に蔦が絡まり、小さな庭には色とりどりの花が咲いている。女将のマーガレットさんは70代の優しい女性で、紅茶とホームメイドのスコーンで迎えてくれた。

「エーヴベリーは特別な場所よ」と彼女は言った。「ここに住んでいると、時々、石たちが語りかけてくるような気がするの。特に霧の深い朝や、月の明るい夜にはね。」

夕食は村の小さなレストラン、サークル・カフェで取った。地元産の食材にこだわった素朴な料理が評判の店だ。ウィルトシャー産のポークテンダーロインに、地元の野菜を添えたメイン料理は、土地の恵みを存分に味わえる一皿だった。

夜が更けてから、もう一度石の円環を歩いてみた。街灯のない村は想像以上に暗く、満天の星空が広がっていた。月明かりに照らされた立石たちは、昼間とは全く違う表情を見せていた。静寂の中に響くのは、遠くから聞こえる羊の鳴き声だけ。時が止まったような、神秘的な夜だった。

2日目: 大地の記憶を辿る一日

朝6時頃、鳥のさえずりで目が覚めた。窓の外は深い霧に包まれており、立石の上部だけがぼんやりと見えている。マーガレットさんの言葉を思い出し、静かに外に出てみた。霧の中の石たちは確かに生きているように見えた。太古の昔から変わらず、この場所を守り続けている番人のように。

朝食は伝統的なイングリッシュ・ブレックファストだった。地元の農場で取れた卵、ウィルトシャー産のベーコン、手作りのブラック・プディング、焼きたてのトーストに、マーガレットさん自家製のマーマレード。どれも素朴で、土地の味がしっかりと感じられる朝食だった。

午前中は、エーヴベリーの北に続くウエスト・ケネット・アベニューを歩いた。これは石の円環から南のザ・サンクチュアリーまでを結ぶ、約2.5キロメートルの古代の参道だ。かつては両側に立石が並んでいたが、現在では一部しか残っていない。それでも、緑の丘陵地帯に点在する石たちを辿って歩くと、古代の巡礼者の気持ちを追体験できるような気がした。

道中で出会った地元の羊飼い、ジョンさんは60代の穏やかな男性だった。「祖父の代からこの土地で羊を飼っている」という彼は、石たちについて興味深い話をしてくれた。

「羊たちは石を避けて草を食むんだ。まるで石の周りに見えない境界があるかのようにね。動物には人間には分からない何かが感じられるのかもしれない。」

午後は、エーヴベリーから車で15分ほどの場所にあるウエスト・ケネット・ロング・バロウを訪れた。全長約100メートルの新石器時代の墳墓で、エーヴベリーよりもさらに古い、紀元前3700年頃の建造とされている。入り口から中に入ると、5つの小部屋に分かれた石の回廊が続いている。薄暗い内部に足を踏み入れると、ひんやりとした空気と共に、太古の人々の祈りや想いが漂っているような感覚に包まれた。

帰り道、シルバリー・ヒルに立ち寄った。人工的に造られたヨーロッパ最大の古墳で、高さ40メートルの円錐形の丘が印象的だ。頂上への登頂は禁止されているが、その整然とした美しい形を眺めているだけで、古代の人々の高度な技術力と美意識に驚嘆させられる。

夕方、村に戻って小さな雑貨店でローカルな食材を購入した。ウィルトシャー産のチーズ、地元のパン屋で焼かれた全粒粉パン、近隣の果樹園で収穫されたリンゴ。B&Bの庭で簡単な夕食を取りながら、一日を振り返った。

夜は再び石の円環を歩いた。前夜とは違い、雲一つない夜空に無数の星が瞬いていた。街の明かりがほとんどないエーヴベリーでは、天の川もはっきりと見える。古代の人々も同じ星空を見上げていたのだろうか。石の円環が天体観測に使われていたという説もあるが、こうして星空を見上げていると、その可能性が十分にありうると感じられた。

マーガレットさんが「特別な夜には、石の間を光る球体が浮遊するのを見た人もいる」と話していたことを思い出した。科学的な説明はつかないが、この場所には確かに特別な何かがある。それを感じ取れるかどうかは、その人の感受性次第なのかもしれない。

3日目: 別れの朝と心に残る想い

最後の朝も早起きをした。今日は帰路に就く日だ。荷物をまとめながら、この短い滞在で感じたことを心の中で整理していた。エーヴベリーは単なる観光地ではなく、何か深い部分で人の心に働きかける力を持った場所だった。

朝食後、マーガレットさんと庭で最後の紅茶を飲んだ。「エーヴベリーに来る人は皆、何かを探している」と彼女は言った。「そして多くの人が、何かを見つけて帰っていく。あなたも何か見つけられたかしら?」

その質問に即答はできなかったが、確かに何かが心の中で変化していることは感じていた。都市生活の中で忘れがちな、時間の流れの豊かさや、自然と人間の関係性について、改めて考えさせられた3日間だった。

午前中、最後にもう一度石の円環をゆっくりと歩いて回った。27個の立石それぞれに個性があり、近づいてじっと見ていると、まるで一つ一つが異なる物語を秘めているかのように感じられた。最大の石は「ダイアモンド・ストーン」と呼ばれ、高さ約5メートル、重さ60トンを超える巨大なもので、朝日を浴びて威厳に満ちて立っていた。

村の小さな博物館、アレクサンダー・ケイラー博物館にも立ち寄った。エーヴベリーの発掘調査を行った考古学者の名前を冠したこの博物館には、発掘された土器や石器、そして復原された古代の生活の様子が展示されている。特に印象的だったのは、中世の時代に石の円環の多くの石が破壊されたり、土に埋められたりしたという歴史だった。キリスト教の普及と共に、古い信仰の象徴である巨石は異教の遺物として忌み嫌われたのだ。

昼食は再びレッド・ライオンで取った。今度はプラウマンズ・ランチという地元の軽食を注文した。ウィルトシャー産のチーズ、ハム、ピクルス、クラッカー、そして地元のチャツネを組み合わせたシンプルな料理だが、それぞれの食材の味がしっかりしており、大地の恵みを感じられる食事だった。

午後2時、村を離れる時間が来た。バス停まで歩く道すがら、立石に別れを告げた。「また来ます」と心の中でつぶやくと、石たちがうなずいているような気がした。

バスの窓から見えなくなるまで、エーヴベリーの石の円環を見つめていた。小さな村は緑の丘陵地帯に抱かれ、古代から変わらない静寂の中にあった。現代文明の喧騒から遠く離れたこの場所で、私は何か大切なものを思い出したような気がしていた。

ロンドンに戻る電車の中で、この3日間の日記を書きながら、エーヴベリーが私に与えてくれたものについて考えていた。それは具体的に言葉で表現するのは難しいが、時間に対する感覚の変化、自然と人間の関係性への気づき、そして日常生活で忘れがちな静寂の価値について、深く考えさせられた経験だった。

最後に

エーヴベリーでの3日間は、空想の旅でありながら、心の中で確かに体験したかのような鮮やかな記憶として残っている。5000年前から続く石の円環の中で過ごした時間は、現代に生きる私たちが失いつつある何かを思い出させてくれた。

それは、時間をゆっくりと味わうこと。自然の営みに耳を傾けること。そして、私たちよりもはるか昔からこの土地に暮らしてきた人々の想いに思いを馳せることの大切さだった。マーガレットさんが言っていた「石たちの語りかけ」も、もしかしたら、そうした古い記憶や想いが形になったものなのかもしれない。

現実には足を向けたことのないエーヴベリーだが、この空想の旅を通じて、その土地の空気、人々の温かさ、そして太古から続く時の流れを確かに感じることができた。いつか本当にその地を踏み、石の円環の中で朝日を浴びる日が来ることを願いながら、この旅の記録を閉じたいと思う。

時には、心の中の旅が、現実の旅よりも深い体験をもたらすことがある。エーヴベリーでの3日間は、まさにそのような旅だった。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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