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  1. たび幻記/

千の塔が紡ぐ赤土の平原 ― ミャンマー・バガン空想旅行記

空想旅行 アジア 東南アジア ミャンマー
目次

はじめに: 千の塔が語りかける古都

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

バガンは、ミャンマー中部のイラワジ川沿いに広がる古都である。11世紀から13世紀にかけて栄華を極めたバガン王朝時代、この平原には1万を超える仏教寺院が建立されたと伝えられている。現在も約2,000の寺院やパゴダが残り、赤茶けた大地に点在するその姿は、まるで時が止まったかのような静寂に包まれている。

朝霧が立ち込める平原に、金色に輝く仏塔の先端が浮かび上がる瞬間。夕日に染まる煉瓦造りの寺院群が地平線まで続く光景。この土地には、現代の喧騒を忘れさせる何かがある。テラワーダ仏教の教えが息づく敬虔な人々の暮らしと、千年の歴史が刻まれた石造りの記憶が、訪れる者の心に深く響く。

イラワジ川は悠々と流れ、その流域に広がる農村では、今も牛車が行き交い、竹で編まれたタナカの香りが風に運ばれてくる。バガンは、ミャンマーの精神的故郷として、そして東南アジア仏教文化の聖地として、静かにその存在感を放ち続けている。

1日目: 古都への扉が開かれるとき

ヤンゴンから国内線でニャウンウー空港に降り立ったのは午前10時頃だった。機内から見下ろしたバガンの平原は、想像していたよりもずっと広大で、煉瓦色の点々が地平線まで続く様子に、胸が高鳴った。空港は小さく、素朴な建物だったが、迎えてくれたタクシーの運転手ミン・トゥンさんの笑顔が印象的だった。

「バガンは初めてですか?」と流暢な英語で話しかけてくれる彼に、緊張がほぐれた。車窓から見える風景は、赤土の道に沿って椰子の木が立ち並び、時折現れる金色のパゴダが陽光を反射して輝いている。オールドバガンの宿に向かう途中、彼が車を止めて「ちょっと見てください」と言った場所で、初めてバガンの寺院群を一望した。息を呑むような光景だった。

ホテルにチェックインを済ませ、午後からは徒歩でオールドバガン地区を散策することにした。まず向かったのは、バガン最大の寺院であるアーナンダ寺院。白い外壁に金色の尖塔が美しいこの寺院は、1105年に建立されたもので、内部には四方を向いた巨大な立仏が安置されている。

寺院の中は薄暗く、足音が静かに響く。南面の仏像の前で手を合わせていると、地元の老女が隣に座り、小さな声でお経を唱え始めた。その穏やかな表情を見ていると、この土地に根ざした信仰の深さを感じた。言葉は通じなくても、彼女が微笑みかけてくれたとき、何か温かいものが心に宿った。

夕方になり、タビィニュ寺院に向かった。この寺院はバガンで最も高い建物で、上層部からは平原を一望できる。階段は急で狭く、登り切ったときには息が切れていたが、そこから見た夕日は忘れられない。西の空が深いオレンジ色に染まり、無数の仏塔のシルエットが浮かび上がる。風が頬を撫でていき、どこからか鐘の音が聞こえてくる。

夜は、オールドバガン市場近くの小さな食堂で夕食をとった。モヒンガーという魚のスープ麺を注文すると、店主の奥さんが笑顔で「辛くないから大丈夫」と言ってくれた。スープは魚の出汁が効いていて、麺はそうめんのように細く、レモングラスの香りが食欲をそそった。隣のテーブルでは地元の家族が賑やかに食事をしており、子どもたちの笑い声が店内に響いていた。

宿に戻ると、中庭でお茶を飲みながら一日を振り返った。星空は都市部では見られないほど美しく、天の川がはっきりと見えた。遠くから聞こえる読経の声が、この古都の夜の静寂をより深いものにしていた。

2日目: 川風と祈りの調べに包まれて

朝は4時半に起床した。気球からの日の出鑑賞は、バガンでの必須体験と聞いていたからだ。まだ暗い中、気球会社の車が迎えに来て、離陸地点まで運んでくれた。他の乗客たちと一緒にバスケットに乗り込むと、ゆっくりと空に舞い上がった。

高度を上げるにつれて、眼下にバガンの全貌が現れた。朝靄に包まれた平原に、まるで宝石のように散らばる寺院群。東の空が薄っすらと明るくなり始めると、仏塔の尖塔が金色に輝き始めた。太陽が地平線から顔を出す瞬間、思わず息を呑んだ。360度のパノラマに広がる古都の景色は、まさに絶景だった。

「Beautiful, isn’t it?」隣にいたドイツ人の老夫婦が話しかけてくれた。「50年前から来たかった場所なんです」と奥さんが目を潤ませながら言った。気球はゆっくりと風に流され、イラワジ川の上空も通過した。川面には小さな漁船が浮かび、漁師たちが網を投げている姿が見えた。

着陸後、シャンパンで乾杯をして、ホテルに戻って朝食をとった。ミャンマー風のお粥に、揚げパンのような「ユーティアオ」、そして甘いミルクティーのラペイエが並んでいた。お粥は優しい味で、体にしみ込むような温かさがあった。

午前中はニューバガン地区を回った。まず訪れたのはシュエサンドー・パゴダ。この仏塔は夕日の名所として有名だが、午前中でも美しい景色を楽しめる。階段を上ると、バガン平原が一望でき、遠くにイラワジ川の流れも見えた。

その後、馬車でオールドバガンからニューバガンまでの道のりを楽しんだ。馬車の御者は60代のおじいさんで、ウー・ティンという名前だった。「この仕事を40年やっています」と誇らしげに話してくれた。馬車は思ったよりも快適で、風を感じながらゆっくりと進む時間が心地よかった。道中、小さな寺院で休憩し、そこで出会った僧侶の方から、バガンの歴史について教えてもらった。

午後は、イラワジ川でのサンセットクルーズに参加した。船着場に向かう途中、村の子どもたちが手を振ってくれた。船は木造の小さなボートで、15人ほどの乗客と一緒に川に出た。川幅は広く、両岸には緑豊かな農地が続いている。船頭さんが「あそこに象がいますよ」と指差した方向を見ると、確かに水辺で水を飲む象の姿が見えた。

夕日が沈み始めると、川面が金色に輝いた。対岸のバガンの寺院群がシルエットとなり、まるで影絵のような美しさだった。船上では、他の乗客たちと静かに夕日を眺め、誰もが言葉を失っていた。フランス人のカップルが小さな声で「マニフィーク」とつぶやいているのが聞こえた。

夜は、ニューバガンのレストランでミャンマー料理のコースを楽しんだ。ティーリーフサラダ、カレー風味の魚料理、そして甘酸っぱいタマリンドのスープなど、どれも初めて味わう料理ばかりだった。特に印象的だったのは、バナナの葉で包んだ魚の蒸し物で、香辛料の効いた繊細な味わいだった。

レストランの庭では、伝統舞踊のパフォーマンスが行われていた。煌びやかな衣装を身にまとった踊り手たちの優雅な動きと、ミャンマーの楽器による音楽が、夜の空気に溶け込んでいった。

3日目: 別れの朝に刻まれる記憶

最終日の朝は、もう一度アーナンダ寺院を訪れることにした。初日とは違う時間帯に見る寺院は、また違った表情を見せてくれた。朝の光が差し込む本堂では、地元の人々が熱心にお祈りを捧げており、その敬虔な姿に心を打たれた。

寺院の周りを歩いていると、花を売る少女に出会った。彼女は流暢な英語で「お花はいかがですか?お祈りに使うんです」と声をかけてくれた。小さな白い花束を購入し、仏像の前に供えた。少女は「ありがとう」と日本語で言ってくれて、その笑顔がとても印象的だった。

その後、最後の記念に、バガン考古学博物館を訪れた。ここには、バガン王朝時代の仏像や壁画、そして歴史的な文書が展示されている。特に、寺院から発見された古い壁画の断片は、千年前の人々の技術の高さを物語っていた。学芸員の方が英語で詳しく説明してくれ、バガンの文化的価値について深く理解することができた。

午前中の最後に、お土産を探してオールドバガン市場を散策した。竹細工、漆器、そして地元の織物など、手作りの品々が並んでいる。特に目を引いたのは、タナカという樹木の粉で作った化粧品だった。店主の女性が、実際に私の頬に塗ってくれて、「これで美しくなりますよ」と笑いかけてくれた。ひんやりとした感触が心地よく、自然の恵みを肌で感じることができた。

昼食は、ホテルのレストランでラストミールとなった。シャン州の麺料理「シャンカウスエ」を注文した。トマトベースのスープに米麺が入った料理で、上にはパクチーと揚げにんにくがトッピングされている。酸味と辛みのバランスが絶妙で、最後にふさわしい味わいだった。

午後は、空港に向かう前に、もう一度シュエサンドー・パゴダに立ち寄った。今度は、内部を詳しく見学した。壁画には、ジャータカ (仏陀の前世の物語) が描かれており、色彩豊かな絵画が歴史の重みを物語っていた。地元のガイドさんが、「この壁画は800年前のものです。当時の人々の信仰心がよく表れています」と説明してくれた。

パゴダの上から最後にバガンの景色を眺めた。午後の陽射しの中で、寺院群は静かに佇んでいた。2日半という短い滞在だったが、この土地が私に与えてくれたものは計り知れない。現代の忙しさを忘れ、静寂の中で自分自身と向き合う時間。歴史の重みを感じながら、人間の営みの儚さと美しさを考える時間。そして、言葉の壁を越えて心が通じ合う、人との出会い。

タクシーの中で、運転手のミン・トゥンさんが「また来てくださいね。バガンはいつでもあなたを待っています」と言ってくれた。窓の外を流れる景色を見ながら、きっとまた戻って来るだろうと思った。バガンは、一度訪れただけで心の故郷になるような、そんな特別な場所だった。

空港で搭乗手続きを済ませ、最後にもう一度、バガンの空を見上げた。雲の間から差し込む陽光が、この古都を優しく包んでいた。機内から見下ろしたバガンは、やはり美しく、どこか懐かしい風景だった。

最後に: 空想でありながら確かに感じられたこと

バガンでの2泊3日の旅は、想像の中での体験でありながら、確かに心の中に刻まれている。千年の歴史を持つ寺院群、イラワジ川の悠々とした流れ、気球から見た朝日、そして出会った人々の温かい笑顔。これらすべてが、まるで実際に体験したかのような鮮明さで記憶に残っている。

この空想の旅が教えてくれたのは、旅とは単に場所を移動することではなく、心が新しい世界に触れることだということだった。バガンという舞台を通じて、異なる文化への理解、歴史への畏敬、そして人間同士のつながりの大切さを感じることができた。

現実の旅行では味わえない、時間や距離の制約から解放された自由さの中で、バガンの魅力を深く堪能することができた。朝日に輝く仏塔、夕日に染まる平原、星空の下で聞こえる読経の声。これらの美しい瞬間は、想像の中であっても、心に深い感動を与えてくれた。

そして何より、この空想の旅を通じて、バガンという実在の場所への憧れと尊敬の念が深まった。いつか本当にこの古都を訪れることができたなら、その時にはきっと、この空想の記憶が現実の体験をより豊かなものにしてくれるだろう。

バガンは、想像の中でも確かに存在し、訪れる者の心に永遠の印象を残す、そんな特別な場所なのかもしれない。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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