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  1. たび幻記/

水音に包まれるアンデスの町 ― エクアドル・バニョスデアグアサンタ空想旅行記

空想旅行 北米・中南米 エクアドル
目次

はじめに: 天国への扉

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

バニョス・デ・アグア・サンタ。その名前を初めて聞いたとき、まるで詩の一節のように響いた。「聖なる水の湯」という意味を持つこの小さな町は、エクアドルのアンデス山脈の麓、標高1,820メートルの場所に静かに佇んでいる。

活火山トゥングラワの恵みを受けたこの地は、古くからその温泉で知られ、南米各地から巡礼者や療養者が訪れてきた。スペイン植民地時代の面影を残す石造りの教会と、先住民ケチュア族の文化が溶け合い、独特の風情を醸し出している。周囲には雲霧林が広がり、無数の滝が山肌を流れ落ちる。まさに自然が創り出した聖域のような場所だ。

現代でもバニョスは、アドベンチャースポーツの拠点として、そして心身を癒す温泉地として愛され続けている。小さな町の中心部には、コロニアル様式の白い建物が並び、石畳の道を歩けば、どこからともなく硫黄の香りと焼きたてのパンの匂いが混じり合って漂ってくる。

1日目: 雲に包まれた到着

キトから続く山道を抜けて、バスがゆっくりと町に入った時、薄い雲が山々を包んでいた。午前10時頃だったと思う。バスターミナルは小さく、地元の人々の温かい視線を感じながら荷物を降ろした。標高の高さを肌で感じる。少し息が上がりやすく、空気が澄んでいて、どこか懐かしい山の匂いがした。

宿泊先のホステルまでは歩いて15分ほど。石畳の道を進みながら、両側に並ぶカラフルな建物を眺めた。赤いタイルの屋根、白や黄色に塗られた壁、小さなバルコニーに咲く色とりどりの花。どの家も手入れが行き届いていて、住む人々の町への愛情が伝わってくる。

ホステルにチェックインを済ませ、すぐに町の中心部へ向かった。バシリカ・デ・ヌエストラ・セニョーラ・デ・アグア・サンタが目に入る。1944年に建てられたこの教会は、町のシンボルとして親しまれている。外観は控えめだが、中に入ると美しいステンドグラスから差し込む光が、まるで天からの祝福のように感じられた。地元の人々が静かに祈りを捧げている姿に、この場所の神聖さを実感する。

昼食は教会近くの小さなレストラン「El Refugio」で。店主のマリアおばさんが作る「ロクロ・デ・パパス」という伝統的なポテトスープを注文した。ジャガイモの優しい甘みとチーズの深いコク、そして微かに香るクミンが疲れた体に染み渡る。一緒に出されたトウモロコシのトルティーヤは、少し甘くてもちもちしていた。マリアおばさんは片言のスペイン語で話す私を微笑みながら見守ってくれて、最後にはサービスでカモミールティーまで出してくれた。

午後は町を散策することにした。メルカド・セントラルでは、色鮮やかな民芸品や新鮮な果物が並んでいる。特に目を引いたのは、手織りのアルパカセーターと、トゥングラワ火山をモチーフにした小さな陶製の置物だった。市場の女性たちは皆、カラフルなポジョーラ (スカート) を身につけ、長い髪を三つ編みにしている。彼女たちの笑顔は太陽のように温かく、言葉が通じなくても心が通った。

夕方になると、空が茜色に染まり始めた。カサ・デル・アルボル (Casa del Árbol) という展望台から見る夕日が美しいと聞いて、タクシーで向かった。そこは確かに絶景だった。トゥングラワ火山がシルエットとなって浮かび上がり、雲海の向こうに沈む太陽が山々を金色に染めている。風は少し冷たかったが、その美しさに時間を忘れて見入ってしまった。

夜は宿の近くの家族経営の小さなレストラン「Mama Inés」で夕食を取った。「クイ・アサド」という料理を頼んでみた。これはエクアドルの伝統料理で、モルモットを丸焼きにしたものだ。最初は少し躊躇したが、思い切って試してみると、意外にも淡白で上品な味わいだった。地元のトウモロコシビール「チチャ」と一緒にいただくと、素朴ながら奥深い味の組み合わせに驚いた。店主のイネスさんは、この料理の歴史について熱心に話してくれた。インカ時代から続く伝統的な食材であり、特別な日にいただく神聖な食べ物だということを教わった。

夜8時頃、宿に戻る道すがら、町のあちこちから聞こえてくる音楽が印象的だった。どこかでギターとケーナ (アンデスの縦笛) の音色が響いている。星空は都市部では見ることのできない満天で、南十字星がはっきりと見えた。部屋の窓から見えるトゥングラワ火山の稜線に、時おり赤い光がちらつくのが見えて、この土地の大地の力強さを改めて感じた。

2日目: 水と風の讃美歌

朝は6時頃、鳥のさえずりで目が覚めた。窓を開けると、澄んだ空気と共に硫黄の香りが部屋に入ってきた。雲がまだ山にかかっていて、幻想的な朝の風景が広がっている。朝食は宿で簡単に済ませた。新鮮なマンゴー、パパイヤ、そして地元のコーヒーが格別に美味しかった。エクアドルのコーヒーは酸味が少なく、チョコレートのような甘みがあって、山の清々しい空気と よく合った。

今日のメインイベントは、ルタ・デ・ラス・カスカダス (滝の道) を巡ることだ。朝9時頃、レンタルした自転車で出発した。バニョスから東に延びる道路沿いには、大小様々な滝が点在している。最初に立ち寄ったのは「プエンテ・サン・フランシスコ」の吊り橋だった。この橋からは渓谷を見下ろすことができ、遥か下を流れるパスタサ川が白い泡を立てて流れているのが見える。橋は少し揺れるが、その揺れが心地よいスリルを与えてくれた。

自転車を30分ほどこいで到着したのが「カスカダ・アグロヤン」という滝だった。高さ60メートルほどの滝が、緑に覆われた崖から一気に落下している。水しぶきが風に舞って、虹が出たり消えたりしている。滝壺の近くまで降りることができ、マイナスイオンをたっぷりと浴びた。水の音が心を洗い流してくれるようで、しばらくの間、岩の上に座って瞑想的な時間を過ごした。

昼食は滝の近くの小さな食堂で「パタコネス・コン・ポジョ」を食べた。これは潰して揚げたプランテンバナナに鶏肉を添えた料理で、素朴だけれど滋養に富んでいる。一緒に飲んだフレッシュなマラクヤ (パッションフルーツ) ジュースが、運動で火照った体を冷ましてくれた。食堂のおじさんは、この地域の滝について詳しく教えてくれた。雨季になると水量が増して、もっと迫力のある景色になるのだという。

午後は「カスカダ・エル・パイロン・デル・ディアブロ」 (悪魔の大釜の滝) へ向かった。ここは最も有名な滝の一つで、高さ80メートルの豪快な滝だ。滝までのトレッキングコースは、雲霧林の中を歩く美しいルートだった。シダ類や着生植物が生い茂り、時おり色鮮やかな鳥が顔を見せる。ハチドリが花の蜜を吸っている場面にも遭遇した。小さな体で羽ばたく姿は、まるで空中で踊っているようだった。

滝に到着すると、その迫力に圧倒された。岩に激突する水の音は雷のようで、水しぶきが霧となって辺りを包んでいる。「悪魔の大釜」という名前の由来がよく分かる。滝壺は深い緑色をしていて、まさに自然の神秘を感じさせる光景だった。ここでも30分ほど時間を過ごし、自然の力強さと美しさに心を奪われた。

夕方に町に戻り、今度は温泉を体験することにした。「テルマス・デ・ラ・ビルヘン」という温泉施設を訪れた。ここは地下深くから湧き出る天然温泉で、ミネラル分が豊富だ。湯温は40度ほどで、ちょうど心地よい温かさ。一日の疲れが溶けていくのを感じながら、山々に囲まれた開放的な景色を楽しんだ。地元の家族連れも多く、子どもたちの笑い声が響いている。温泉文化は日本だけのものではないのだと改めて実感した。

夜は町の中心部にあるミュージックバー「La Casa de la Cultura」を訪れた。ここでは毎晩、地元のミュージシャンたちが演奏を行っている。今夜はアンデス音楽のライブがあった。ケーナ、チャランゴ (小さなギター) 、ボンボ (太鼓) の織りなす音楽は、心の奥深くに響いてくる。特に印象的だったのは「El Cóndor Pasa」という曲で、演奏者の情感豊かな表現に涙が出そうになった。観客と演奏者の距離が近く、アットホームな雰囲気の中で音楽を楽しむことができた。

ビールを飲みながら音楽に耳を傾けていると、隣に座っていた地元の青年カルロスと話をする機会があった。彼はエクアドルの大学で環境学を学んでいて、この地域の生態系保護に情熱を燃やしていた。流暢な英語で、トゥングラワ火山周辺の動植物について教えてくれた。特に印象深かったのは、この地域にしか生息しない固有種のハチドリの話だった。彼らの存在が、この地域の生態系の豊かさを物語っているのだという。

夜も更けて、宿に戻る途中、満天の星空を見上げた。都市部では決して見ることのできない、天の川がはっきりと見える。アンデスの夜空は、まるで宇宙との距離が縮まったような錯覚を覚えるほど美しかった。部屋に戻ってからも、今日体験した自然の力強さと人々の温かさを思い返していた。

3日目: 旅路の終わりに響く讃美歌

最後の朝は、少し早めに起きて町を歩いてみた。朝6時頃の バニョスは、夜明けの静寂に包まれている。石畳の道に朝露が光って、空気は冷たく清々しい。パン屋さんが一軒開いていて、焼きたてのパンの香りが町に広がり始めていた。そこで「パン・デ・ユカ」という地元の伝統的なパンを買った。ユカ芋を使ったもちもちしたパンで、ほんのりした甘さが朝の空腹を満たしてくれた。

朝食後、荷物をまとめて最後の目的地へ向かった。今日は「コルンボ・デ・サン・マルティン」という展望台を訪れる予定だ。ケーブルカーで山を登ること15分、標高2,500メートル地点に到着した。ここからの眺めは、まさに絶景という言葉がふさわしい。バニョスの町全体が眼下に広がり、その向こうには雲海に浮かぶアンデスの峰々が連なっている。トゥングラワ火山も間近に見え、時おり山頂から立ち上る噴煙が、この土地の生きた大地を実感させてくれた。

展望台には小さなカフェがあり、そこで地元のハーブティーを飲みながら景色を楽しんだ。「グアヤーサ」という、アマゾン地域で古くから飲まれているお茶だった。緑茶に似た風味だが、よりまろやかで、高地での疲れを癒してくれる効果があるのだという。カフェの店主は、この景色を見ながら育ったというエクアドル人の女性で、故郷への愛を込めて、バニョスの歴史や文化について語ってくれた。

午前中いっぱいを展望台で過ごし、昼前に町に戻った。最後の昼食は、宿の近くの「Restaurante El Pequeño Paraíso」で取った。店名通り「小さな楽園」という雰囲気の、家庭的な温かいレストランだった。「セビーチェ・デ・ペスカド」という、新鮮な魚のマリネ料理を注文した。ライムとタマネギ、コリアンダーで和えた魚は、シンプルながら素材の味が生きている絶品だった。一緒に出されたカンチャ (炒りトウモロコシ) の食感も楽しく、最後の食事を満足して終えることができた。

午後は、お土産を買いに再び市場を訪れた。アルパカウールのマフラーと、トゥングラワ火山の形をした小さな陶器の置物を選んだ。市場のおばさんは、私が帰国することを伝えると、「¡Buen viaje! (良い旅を!) 」と温かい言葉をかけてくれた。その笑顔に、この2泊3日間で出会った人々の優しさが凝縮されているように感じた。

バスの出発時刻が近づいてきた。最後にもう一度、バシリカ・デ・ヌエストラ・セニョーラ・デ・アグア・サンタを訪れた。この3日間の無事を感謝し、また いつかこの地を訪れることができるように祈った。教会の中は午後の光で温かく照らされ、ステンドグラスから差し込む光が、まるで祝福のように感じられた。

バスターミナルに向かう道すがら、振り返ると山々に囲まれたバニョスの町が見えた。白い建物、赤い屋根、そして遠くに見えるトゥングラワ火山。たった3日間だったが、この風景は心の奥深くに刻み込まれた。バスが動き出すと、窓から見える景色が少しずつ遠ざかっていく。でも、心の中にはバニョスで体験したすべてが、鮮明に残っていた。

山道を下りながら、この3日間で感じたことを整理してみた。自然の圧倒的な美しさと力強さ、温泉の癒し、地元の人々の温かさ、伝統料理の味わい、アンデス音楽の響き。どれも単なる観光体験を超えて、心に深く響く出会いだった。特に印象深かったのは、人々の笑顔だった。言葉が完全に通じなくても、心と心で通じ合える瞬間があったことが、何よりもかけがえのない思い出となった。

最後に: 空想でありながら確かに感じられたこと

この旅は、AIの力を借りて描いた空想の旅路だった。しかし、バニョス・デ・アグア・サンタという実在の美しい町について調べ、想像を膨らませながら綴った3日間は、確かに心の中で体験したような感覚がある。

エクアドルの山間にある小さな温泉町。そこに暮らす人々の温かさ、アンデスの雄大な自然、伝統的な料理の味わい、そして清らかな温泉の恵み。これらすべてが、文字を通して心に深く刻まれた。現実には足を運んでいないけれど、その土地の空気感、音、匂いまでもが、想像の中で確かに感じられた。

旅とは、必ずしも物理的な移動だけではないのかもしれない。心が動き、新しい文化や人々との出会いを想像し、未知の体験に思いを馳せること。それもまた、一つの旅の形なのではないか。バニョス・デ・アグア・サンタという美しい響きの町で過ごした空想の3日間は、実際の旅への憧憬を膨らませ、いつかは本当にその地を訪れてみたいという強い思いを抱かせてくれた。

空想でありながら、確かにあったように感じられる旅。それは、人間の想像力と、その土地への敬意と愛情があってこそ生まれるものなのだろう。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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