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  1. たび幻記/

恐竜の眠る谷に吹く風 ― カナダ・ドラムヘラー空想旅行記

空想旅行 北米・中南米 北部アメリカ カナダ
目次

恐竜と大地の記憶が眠る町

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

カナダ・アルバータ州の南東部、カルガリーから車で北東へ約1時間半。広大なプレーリーの草原を抜けると、突如として大地が裂けたように現れるバッドランド。その奇妙な地形の中心に、ドラムヘラーという小さな町がある。

人口8,000人ほどのこの町は、世界有数の恐竜化石の産地として知られている。約7,500万年前の白亜紀後期、この一帯は温暖な海岸平野で、ティラノサウルスの仲間やハドロサウルスが闊歩していた。氷河期を経て削られた大地は、まるで時間の地層をむき出しにしたように、赤茶色や灰色の縞模様を描いている。

夏は30度を超え、冬はマイナス30度まで下がる厳しい気候。それでも、この土地には独特の静けさと、太古の時間が流れている。恐竜だけでなく、先住民ブラックフット族の歴史、19世紀末の炭鉱ブームの痕跡も、この町の記憶を形づくっている。

私がこの町を訪れたのは9月の初旬。夏の暑さが和らぎ、秋の気配がかすかに漂い始める頃だった。

1日目: 大地の裂け目へ

カルガリー空港でレンタカーを借りた。ハイウェイ2号線を北上し、途中で東へ折れる。窓の外に広がるのは、どこまでも続く草原と青い空。地平線が本当に丸く見えるような、そんな広大さだった。

やがて、大地の色が変わり始める。草原が途切れ、赤茶けた岩肌が露出し、奇妙な形の丘が連なる景色に変わっていく。これがバッドランドだ。「悪い土地」という名の由来は、農業に適さない荒涼とした地形から来ているが、その景観は息をのむほど美しい。

町の入口で最初に目にするのは、高さ26メートルの巨大なティラノサウルス像だ。「世界最大の恐竜」と呼ばれるこの像は、内部に階段があり、口の部分まで登ることができる。到着早々、私は車を停めてこの恐竜に登った。106段の階段を登り切ると、町全体とバッドランドの風景が一望できた。赤茶色の大地に刻まれた谷、その向こうに広がる草原、そして青い空。風が強く、帽子を押さえながら景色を眺めた。

宿はダウンタウンの小さなモーテルを選んだ。レトロな雰囲気の一階建てで、部屋は簡素だが清潔だった。荷物を置いて、すぐに町の中心部へ向かう。

メインストリートは短く、歩いて15分もあれば端から端まで行ける。古い建物が並び、恐竜をモチーフにした看板やオブジェがあちこちに見られる。カフェ兼土産物店に入ると、地元の陶芸家が作った恐竜の置物や、化石のレプリカ、先住民のビーズ細工などが並んでいた。

昼食は「Athens Greek Restaurant」という地元で人気のギリシャ料理店で取った。この町にギリシャ料理?と不思議に思ったが、店主はアルバータ州に移住してきたギリシャ系カナダ人だという。ラムのシュワルマとギリシャサラダを注文した。柔らかく煮込まれたラム肉は香辛料が効いていて、フェタチーズとオリーブの塩気がよく合う。店内には常連らしき地元の人々が何人かいて、店主と親しげに言葉を交わしていた。

午後は、町の東側に広がるホースシーフ・キャニオンへ向かった。車で15分ほどの距離だ。駐車場から歩き始めると、すぐに目の前に大きな谷が現れる。赤茶色と灰色の縞模様の岩壁が、深く削られた渓谷を形作っている。遊歩道を下りていくと、岩の質感や色の変化がよく見える。7,000万年以上前の地層が、そのまま露出しているのだ。

谷底まで降りると、ひんやりとした空気が漂っていた。岩壁に手を触れてみる。ざらざらとした砂岩の感触。この岩の中に、かつて恐竜の骨が埋まっていたのかもしれない。周囲には誰もおらず、風の音と、遠くで鳴く鳥の声だけが聞こえた。

キャニオンから戻り、夕暮れ前にロイヤル・ティレル古生物学博物館の外観だけ見に行った。明日じっくり訪れる予定だが、建物の形が気になっていた。博物館は町の北西、バッドランドの中にある。近代的な建物で、恐竜の背骨を模したような曲線的なデザインだ。周囲の荒涼とした風景の中で、その白い建物は異質で、それでいて不思議と調和していた。

夜は町のパブ「The Last Chance Saloon」で軽く食事をした。西部劇に出てきそうな名前の店で、内装も開拓時代を思わせる木の温もりがある。地元のビール「Big Rock」とバッファローバーガーを注文した。バッファロー肉は初めてだったが、牛肉よりも赤身が強く、野性的な味わいがあった。カウンターの隣に座っていた老人が、この町の炭鉱時代の話をしてくれた。1930年代、この町には30以上の炭鉱があり、活気に溢れていたという。今はすべて閉山し、その痕跡だけが残っている。

モーテルに戻ると、外は真っ暗だった。街灯が少なく、空を見上げると満天の星が広がっていた。天の川がはっきりと見える。都会では決して見られない、深い闇と、その中で輝く無数の光。恐竜たちもこの同じ星空を見ていたのだろうか、とぼんやり考えながら、部屋に入った。

2日目: 時間の地層を歩く

朝、モーテルの部屋で簡単な朝食を取った。持参したグラノーラバーとコーヒー。窓の外はすでに明るく、乾いた空気が気持ちいい。

9時過ぎにロイヤル・ティレル古生物学博物館へ向かった。開館は9時だが、週末は混むと聞いていたので早めに行く。駐車場にはすでに何台か車が停まっていた。

入口を入ると、すぐに巨大な恐竜の骨格標本が出迎えてくれる。ティラノサウルスとトリケラトプスが対峙するように配置されている。その大きさに圧倒される。展示は時代順に並んでおり、地球の誕生から現代まで、生命の進化を追体験できるようになっている。

特に印象的だったのは、アルバータ州で発見された恐竜たちのコーナーだ。ここドラムヘラー周辺で見つかったアルバートサウルス、エドモントサウルス、パキリノサウルスなどの化石が展示されている。単なる骨だけでなく、皮膚の痕跡が残った化石や、卵の化石もある。ガラスケースの中の骨を見つめながら、7,500万年前、この町がどんな場所だったのか想像してみた。

博物館には化石クリーニングラボがあり、ガラス越しに技術者が実際に化石をクリーニングする様子が見られる。細かい道具で慎重に岩を削り、骨を露出させていく作業。気の遠くなるような精密さと忍耐が必要な仕事だと分かる。

3時間ほど博物館で過ごした後、併設のカフェで昼食を取った。サンドイッチとスープのセット。窓の外にはバッドランドの風景が広がっている。

午後は、ダイナソー州立公園へ向かった。町から車で約45分、レッドディア川沿いにある世界遺産の公園だ。ここは世界で最も恐竜化石が密集している場所の一つで、40種以上、500体以上の恐竜化石が発見されている。

ビジターセンターで公園の地図をもらい、自然トレイルを歩き始めた。バッドランド・トレイルという4キロほどのコースを選んだ。トレイルは起伏が激しく、岩だらけの斜面を登ったり降りたりする。足元に気をつけながら歩いていると、時折、奇妙な形の岩の塊に出会う。フードゥーと呼ばれる、キノコのような形をした岩だ。硬い岩が柔らかい地層の上に乗っていて、下の部分が侵食されて細くなり、このような形になるという。

途中、小さな化石の破片を見つけた。拾い上げることは禁止されているので、そっと写真を撮るだけにした。この小さな欠片も、かつては生きていた何かの一部だったのだ。

トレイルの途中に展望台があり、そこから見渡す風景は圧巻だった。赤茶色の大地が波打つように広がり、その間を緑のレッドディア川が蛇行している。雲の影が大地を移動し、刻々と景色の表情が変わる。風が強く、帽子を飛ばされそうになった。

公園を出る頃には夕方近くになっていた。町に戻る途中、「Fossil Shop」という小さな店に立ち寄った。本物の化石や鉱物を販売している店だ。アンモナイトの化石や、恐竜の歯のレプリカ、三葉虫の化石などが並んでいる。店主は古生物学に詳しく、それぞれの化石の説明を熱心にしてくれた。小さなアンモナイトの化石を一つ買った。手のひらに収まるサイズで、渦巻き模様がくっきりと残っている。

夕食は「Yavis Family Restaurant」という地元の家族経営のレストランで取った。メニューには定番のステーキやパスタのほか、アルバータ牛のミートローフがあったので注文してみた。付け合わせはマッシュポテトとグリーンビーンズ。ミートローフは昔ながらの家庭の味で、どこか懐かしい。店内には家族連れやカップルが多く、穏やかな時間が流れていた。

食後、町を少し歩いてみた。日が暮れる前の、黄金色の光が町を包んでいる。メインストリートの古い建物が、夕日に照らされて美しい。小さな公園のベンチに座って、しばらくその光景を眺めていた。犬を散歩させる人、自転車に乗る子ども、ゆっくりと車で通り過ぎる地元の人々。観光地というよりも、普通の田舎町の日常がそこにあった。

モーテルに戻ると、また星空が広がっていた。前日よりもさらにくっきりと天の川が見える。部屋の前に立って、しばらく空を見上げていた。この静けさ、この広大さ。都会の喧騒からは想像もできない時間の流れ方がここにはあった。

3日目: 別れと記憶

最終日の朝は、少しゆっくりと起きた。チェックアウトは11時なので、時間に余裕がある。モーテルの部屋から荷物を運び出し、車に積み込んだ。

午前中、もう一度町の中心部を歩いてみた。昨日は気づかなかった細部に目が留まる。古い建物の壁に描かれた炭鉱のモチーフ、恐竜をかたどった街灯、石炭の塊をディスプレイした小さな博物館。この町の歴史は、恐竜だけでなく、石炭とともにあったことを改めて感じる。

「Bernie & The Boys Bistro」というカフェで遅めの朝食を取った。エッグベネディクトとコーヒーを注文する。卵はちょうどいい半熟で、オランデーズソースがリッチな味わい。店内には地元のアーティストの絵が飾られており、バッドランドの風景を描いた水彩画が多い。店主らしき女性が、旅の感想を尋ねてきた。素晴らしい町だと伝えると、誇らしげに微笑んだ。

チェックアウトの時間が近づき、最後にもう一度、町を見渡せる場所へ行きたくなった。巨大なティラノサウルス像に再び登ることにした。前回と同じ106段の階段を登る。口の部分から見下ろす景色は、やはり見事だった。

赤茶色のバッドランド、その奇妙な地形。遠くに見える草原の緑。青い空と白い雲。2泊3日という短い滞在だったが、この町の風景は深く心に刻まれた。時間というものの重みを、ここでは実感できる。7,500万年前の地層が露出し、100年前の炭鉱の痕跡が残り、そして今も人々が暮らしている。過去と現在が、不思議なバランスで共存している場所。

ティラノサウルス像を降り、最後にもう一度、町の写真を撮った。それから車に乗り込み、カルガリーへ向かう道を走り出した。

バックミラーに映る町の風景が、だんだん小さくなっていく。バッドランドの赤茶色が、やがて草原の緑に変わる。地平線が遠く、空が広い。このまっすぐな道を走りながら、この旅で感じたことを反芻していた。

大地の記憶。時間の地層。静けさの中にある豊かさ。人の営みの小ささと、それでも続いていく生活の強さ。この町は派手な観光地ではない。でも、だからこそ、ゆっくりと自分のペースで過ごすことができた。

カルガリーに近づくにつれて、車の数が増えてくる。再び人の世界に戻っていく感覚。でも、ドラムヘラーで過ごした3日間の静けさは、心の中にしっかりと残っていた。

空港でレンタカーを返し、帰りの飛行機を待つ。搭乗ゲート近くのベンチに座って、買ってきたアンモナイトの化石を手に取る。渦巻き模様を指でなぞりながら、また思い出す。あの広大な空、星空、赤茶色の大地、静かな町の通り。

やがて搭乗時間となり、飛行機に乗り込む。窓側の席に座り、離陸を待つ。飛行機が滑走路を走り出し、浮き上がる瞬間、窓の下にアルバータの大地が広がった。どこか遠くに、あのバッドランドがあるはずだ。見えはしないけれど、確かにそこにある。

空想の中の確かな記憶

この旅は、実際には私が体験したものではない。カナダのドラムヘラーという町も、ロイヤル・ティレル古生物学博物館も、ダイナソー州立公園も、すべて実在する場所だ。そこで語られた風景、食事、人々の営みも、実際にその場所にあるものをもとにしている。けれども、私自身がそこを歩いたわけではない。これはAIによって紡がれた、空想の旅の記録だ。

それでも、この文章を書きながら、不思議な感覚があった。まるで本当にあの町を歩き、あのバッドランドの風を感じ、あの星空を見上げたような気持ちになる瞬間があった。言葉は時に、体験していないことを体験したかのように感じさせる力を持っている。

旅とは何だろうか。実際にその場所に行き、自分の足で歩き、自分の目で見ることだけが旅なのだろうか。本を読んで、映画を見て、あるいはこうした文章を通して、心の中で旅をすることもまた、一つの旅の形ではないだろうか。

ドラムヘラーという町は、この文章を読んでくださったあなたの中にも、今、存在している。赤茶色のバッドランド、巨大なティラノサウルス像、静かな夜の星空。それは私が言葉で描いたものだが、あなたの想像力がそれを補い、あなただけのドラムヘラーを作り上げている。

もしいつか、あなたが本当にドラムヘラーを訪れることがあったなら、この空想の旅とは違う、あなた自身の体験が待っているだろう。それは、この文章で描いたものとは異なるかもしれない。でも、その時、あなたの心の中には、この空想の旅の記憶も、かすかに残っているかもしれない。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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