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  1. たび幻記/

海と光がつなぐ島の道 ― アメリカ・フロリダキーズ空想旅行記

空想旅行 北米・中南米 北部アメリカ アメリカ合衆国
目次

はじめに: カリブ海への架け橋

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

フロリダキーズ。その名前を口にするだけで、どこか遠い南の島への憧憬が胸に宿る。マイアミから南西へ約160キロメートル、カリブ海とフロリダ湾に挟まれた珊瑚礁の島々は、まるで海に浮かぶ真珠の首飾りのように連なっている。

この島嶼群は、約1,700の島々から成り立っているが、そのうち人が住んでいるのはわずか30ほど。アメリカでありながらアメリカではない、独特の文化が息づく場所である。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、キューバからの移民によってもたらされたコンク・リパブリック (貝の共和国) の精神は、今もなお島民たちの心に根付いている。1982年、麻薬取締りの検問所設置に抗議して独立を宣言したという、反骨精神に満ちた逸話は、この土地の自由奔放な気質を物語っている。

オーバーシーズ・ハイウェイ (US-1) が島々を結ぶ全長約180キロメートルの海上道路は、世界でも類を見ない絶景ドライブコースとして知られている。42の橋が点在し、その中でも有名なセブンマイル・ブリッジは、まさに海の上を走る感覚を味わえる。

ここには、ヘミングウェイが愛したキーウェストの文学的な香り、バハマ風建築の家々、新鮮なキーライムパイの甘酸っぱい記憶、そして何より、時間がゆっくりと流れる「アイランドタイム」と呼ばれる独特のリズムがある。

1日目: 潮風に包まれた到着の日

マイアミ国際空港からレンタカーを走らせること約3時間半。フロリダシティを過ぎてUS-1に入った瞬間、車窓の景色は一変した。両側に広がるのは果てしない海。空の青と海の青が溶け合って、どこまでが空でどこからが海なのか分からなくなる。

最初の目的地はイスラモラダ。「紫の島」という意味を持つこの島は、フロリダキーズの中でも特に美しいと言われている。午前11時頃に到着した私は、まずRobbie’s Marinaへ向かった。ここは野生のターポン (大型の魚) の餌付けで有名な場所だ。桟橋の上に立つと、透明度の高い海水の中を悠々と泳ぐ巨大な魚たちの姿が見える。餌の小魚を投げると、水面が激しく波立ち、銀色に光るターポンが跳躍する。その迫力に思わず息を呑んだ。

昼食は同じマリーナ内のレストランで、地元名物のマヒマヒサンドウィッチを注文した。新鮮な白身魚に、タルタルソースとレタス、トマトがサンドされたシンプルな一品だが、海風に当たりながら食べるその味は格別だった。隣のテーブルでは、日焼けした地元の漁師らしき男性が、観光客らしき家族に釣りのコツを教えている。彼の話す英語は独特の訛りがあり、キーズの人々の温かさが伝わってくる。

午後は、アン・ビーチへ向かった。フロリダキーズで数少ない砂浜のビーチの一つだ。ヤシの木陰にビーチチェアを置き、持参した文庫本を開く。しかし、目の前に広がる絶景に集中できず、ページは一向に進まない。遠浅の海は信じられないほど透明で、小さな熱帯魚たちが泳ぐ姿まで見える。時折、ペリカンが急降下して魚を捕える様子も見えた。

夕方、宿泊先のホテルにチェックインした。イスラモラダの老舗リゾート「Cheeca Lodge & Spa」は、1940年代から続く歴史あるホテルだ。バハマ風の白い建物と青い屋根が、夕日に映えて美しい。部屋のバルコニーからは、フロリダ湾の夕景が一望できる。

夜の食事は、地元で評判の「Pierre’s Restaurant」で。フレンチ・クレオール料理の老舗で、キーズらしいシーフードをフランス風にアレンジした料理が自慢だという。私は、ロブスタービスクとキーライム・グレーズをかけたマヒマヒを注文した。ビスクの濃厚な味わいと、マヒマヒの淡白な身にキーライムの酸味が絶妙にマッチしている。ワインはフロリダ産の白を選んだが、意外にもフルーティーで飲みやすい。

レストランの窓からは、満天の星空が見える。都市部では決して見ることのできない星の数に圧倒される。これがフロリダキーズの夜なのかと、改めてこの場所の特別さを感じた。ホテルに戻る道すがら、ヤシの葉が風に揺れる音と、遠くで聞こえる波の音だけが夜の静寂を彩っていた。

2日目: 海と歴史に抱かれた探求の日

目覚めると、バルコニーから差し込む朝日が部屋を金色に染めていた。時計を見ると午前6時半。普段の生活では考えられない早起きだが、この美しい朝を見逃すのはもったいない。簡単に身支度を整えて、ホテル敷地内の海岸を散歩した。朝の海は静かで、小さな波が砂浜に優しく打ち寄せている。早朝の漁から戻ってきたボートが一隻、ゆっくりとマリーナに向かって進んでいく。

朝食はホテルのレストランで。フロリダらしくフレッシュなオレンジジュースと、ココナッツパンケーキ、そして地元産のキーライムヨーグルトを味わった。キーライムの酸味が朝の胃に優しく、一日の始まりに相応しい爽やかさだった。

午前9時、今日のメインイベントであるガラス底ボートツアーに参加するため、ロバート・フックの海洋公園へ向かった。フロリダキーズの海中には、北米唯一の生きた珊瑚礁が広がっている。ボートの底の透明な窓から見える海底は、まさに別世界だった。色とりどりの珊瑚礁に、エンゼルフィッシュ、パロットフィッシュ、ブルータング、そして時折巨大なウミガメも姿を現す。ガイドの説明によると、この珊瑚礁は1960年代に国立海洋保護区に指定され、厳格に保護されているという。環境保護の大切さを、実際の美しさを通じて実感した。

昼過ぎ、次の目的地キーラルゴへ移動した。ここには、映画「キーラルゴ」で使われたボートが展示されているキーラルゴ原州立公園がある。1948年のハンフリー・ボガード主演の名作映画の舞台となったこの島は、ハリケーンと犯罪者という二つの嵐に立ち向かう人間ドラマで知られている。公園内の小さな博物館では、映画の撮影風景や当時の写真が展示されており、黄金時代のハリウッドの香りを感じることができた。

午後の遅い時間は、John Pennekamp Coral Reef State Parkでスノーケリングを楽しんだ。1963年に設立されたアメリカ初の海中公園で、透明度25メートルを超える海中は、まるで巨大な水族館のようだった。水中に立つキリスト像「Christ of the Abyss」は、この公園の象徴的存在。イタリアの彫刻家によって作られた高さ2.5メートルのブロンズ像が、静かに海底に佇んでいる。その神々しい姿に、思わず手を合わせてしまった。

夕方は、US-1沿いのローカルなバー「Alabama Jack’s」へ立ち寄った。1950年代から続くこの店は、地元の人々に愛され続けている隠れた名店だという。屋外のテラス席で、生牡蠣とコンクフリッター (巻貝のフライ) をビールとともに味わった。コンクフリッターは、キーズの代表的な料理の一つで、巻貝の身をスパイスで味付けし、衣をつけて揚げたもの。外はカリッと、中はプリプリとした食感が癖になる。

店内では、ローカルミュージシャンによる生演奏が始まった。カントリーとレゲエを融合させたような、キーズ独特の音楽だ。観客も自然に手拍子を始め、アットホームな雰囲気に包まれる。隣のテーブルの老夫婦が、若い頃のように手を取り合って踊り始めた姿が印象的だった。

夜は再びホテルに戻り、バルコニーで海を眺めながら一日を振り返った。朝の静寂から始まり、海中の驚異、映画の歴史、そして地元の人々の温かさまで、フロリダキーズの多面的な魅力を存分に味わった一日だった。遠くで鳴くカモメの声を聞きながら、明日が最終日であることに一抹の寂しさを感じていた。

3日目: 別れの島で紡ぐ記憶の糸

最終日の朝は、これまでで最も美しい日の出で始まった。オレンジ色の太陽が水平線からゆっくりと顔を出し、海面を金色に染めていく。この瞬間を写真に収めたかったが、カメラを向けるよりも、この美しさを心に刻むことを選んだ。

朝食後、チェックアウトを済ませてキーウェストへ向かった。アメリカ本土最南端の街として知られるこの島は、フロリダキーズの最大の見どころの一つだ。US-1の終点でもあり、「Mile Marker 0」の標識が観光客を出迎えてくれる。

到着してまず向かったのは、デュバル通り。この通りは、昼間はのんびりとした観光地の雰囲気だが、夜になると活気あふれるナイトライフの中心地に変わるという。通りの両側には、カラフルなバハマ風の建物が立ち並び、お土産店、レストラン、バーが軒を連ねている。

途中で立ち寄ったのは、「Sloppy Joe’s Bar」。ヘミングウェイが常連だったとされる有名なバーだ。店内は薄暗く、壁には作家の写真や愛用品が展示されている。昼間から地元の人らしき男性が一人、静かにビールを飲んでいる。私もヘミングウェイ・ダイキリを注文し、文豪が愛したであろう味を確かめてみた。ラムとライムジュース、砂糖のシンプルな組み合わせだが、キューバの香りが漂う大人の味わいだった。

午前の後半は、ヘミングウェイ・ハウス&ミュージアムを訪れた。1851年に建てられたこの邸宅で、作家は1930年代の10年間を過ごし、「武器よさらば」「誰がために鐘は鳴る」などの名作を執筆した。現在も約50匹の6本指の猫が住んでおり、その子孫たちが自由に敷地内を歩き回っている。書斎に残された作家の愛用のタイプライターを見ながら、創作活動に没頭した日々を想像してみた。

昼食は、ヘミングウェイも足を運んだという「El Meson de Pepe」で。キューバ料理の老舗レストランで、ロパ・ビエハ (牛肉の細切り煮込み) とプランテン (調理用バナナ) を注文した。スパイシーで深い味わいのロパ・ビエハは、キューバ系移民の多いキーウェストならではの本格的な味だった。隣のテーブルでは、スペイン語で賑やかに会話する家族がいて、この街の多様性を感じさせてくれる。

午後は、マロリー・スクエアを散策した。ここは夕日の名所として世界的に有名で、毎日夕方になると大道芸人たちがパフォーマンスを披露する「サンセット・セレブレーション」が開催される。昼間でも観光客や地元の人々で賑わっており、露店では手作りのアクセサリーやアート作品が売られている。

特に印象的だったのは、地元のアーティストが描いた油絵だった。フロリダキーズの風景を独特のタッチで表現した作品群は、どれも温かみがあり、この土地への愛情が感じられる。一枚の小さな絵を購入し、旅の記念とした。

時間が許す限り、サウスモスト・ポイントも訪れた。アメリカ本土最南端を示すカラフルなブイ型の記念碑は、多くの観光客が記念撮影をする人気スポットだ。ここからキューバまでは、わずか90マイル (約145キロメートル) 。晴れた日には、遠くキューバの島影が見えることもあるという。

夕方、ついにマロリー・スクエアでのサンセット・セレブレーションの時間がやってきた。大道芸人たちのパフォーマンスが始まり、観客は自然と円を作る。ジャグリング、マジック、音楽演奏など、様々な芸が披露される中、太陽は徐々に西の海に向かって傾いていく。

そして午後7時過ぎ、ついに太陽が水平線に沈む瞬間がやってきた。観客は一斉に歓声を上げ、拍手を送る。この「グリーンフラッシュ」と呼ばれる現象を見ることができれば幸運だと言われているが、この日は雲が少し多く、残念ながら見ることはできなかった。それでも、フロリダキーズの夕日は十分に美しく、心に深く刻まれた。

夕食は、最後の夜にふさわしく、高級シーフードレストラン「Louie’s Backyard」で。海に面したテラス席で、ストーンクラブとキーライムパイを味わった。ストーンクラブは、フロリダの冬の味覚として有名で、甘くて繊細な身が絶品だった。そして締めくくりのキーライムパイは、まさにフロリダキーズの代表的デザート。濃厚でありながら爽やかな酸味が口の中に広がり、この旅の甘い思い出を象徴するような味わいだった。

レストランを出ると、もう夜も深く、街の灯りがキラキラと海面に映っている。明日の朝にはマイアミへと戻らなければならない。フロリダキーズでの2泊3日は、まるで夢のように過ぎ去ってしまった。

最後に: 空想でありながら確かに感じられたこと

フロリダキーズから戻ってきて、しばらく経った今でも、あの島々で過ごした時間の記憶は鮮明に残っている。潮風の匂い、透明な海の色、キーライムパイの甘酸っぱさ、地元の人々の温かい笑顔、そして何より、時間がゆっくりと流れるあの独特のリズム。

この旅で最も印象深かったのは、自然と文化、歴史が見事に調和している点だった。珊瑚礁の美しさは、環境保護の大切さを教えてくれた。ヘミングウェイの足跡は、文学と土地の深いつながりを感じさせてくれた。そして、キューバ系移民がもたらした食文化や音楽は、この土地の多様性と豊かさを物語っていた。

また、フロリダキーズの人々が持つ「アイランドタイム」という概念に触れることで、日常生活では忘れがちな、ゆっくりと生きることの価値を再認識した。効率や成果を重視する現代社会において、時には立ち止まり、周囲の美しさに目を向けることの大切さを学んだ。

海中のキリスト像の前で感じた静寂、夕日を見送る人々の歓声、バーでの何気ない会話、早朝の海岸散歩で聞いた波の音。これらすべてが、心の深いところに響く体験だった。

もちろん、この旅は空想の産物である。実際に足を運んだわけではない。しかし、フロリダキーズという土地の魅力、そこに息づく文化や自然の美しさについて深く思いを巡らせることで、まるで本当に体験したかのような感覚を得ることができた。

想像力という翼を広げれば、どんな場所にでも旅をすることができる。そして、その空想の旅もまた、現実の旅に勝るとも劣らない価値を持つのかもしれない。フロリダキーズの青い海と白い砂浜、そして温かい人々の記憶は、これからも私の心の中で生き続けるだろう。

いつの日か、本当にフロリダキーズを訪れる機会があったとき、この空想の旅の記憶と現実の体験がどのように重なり合うのか。それもまた、楽しみの一つである。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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