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  1. たび幻記/

大地が描く波に出会う旅 ― オーストラリア・ハイデン空想旅行記

空想旅行 オセアニア オーストラリア
目次

はじめに

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

西オーストラリア州の小さな町、ハイデン。パースから車で東へ約340キロメートル、人口わずか200人ほどのこの町は、一見すると地図上の点にすぎない。けれど、その周囲に広がる風景は、オーストラリアの原初の美しさを色濃く残している。

ハイデンの名前は、1800年代後期にこの地域を探検したヨーロッパ系入植者の名前に由来する。しかし、この土地にはそれよりもはるかに古い歴史がある。先住民アボリジニの人々が何万年もの間、この乾いた大地を家として暮らしてきた。彼らの残した岩絵や聖地が、今もなおこの土地に静かに息づいている。

町の周辺には、ウェーブロックと呼ばれる巨大な岩の波が有名だが、ハイデンにはそれ以外にも数多くの奇岩群が点在している。マレット・ロックやキング・ロックなど、長い年月をかけて風雨に削られた花崗岩の巨石たちが、まるでこの大地の記憶を語りかけるように佇んでいる。

乾燥した気候と広大な麦畑、そして点在する塩湖。ここは都市の喧騒とは対極にある、静寂と広大さに包まれた場所だった。

1日目: 赤い大地との出会い

パースを朝早く出発した車は、舗装された一本道をひたすら東へと向かった。窓の外に広がる風景は、次第に緑から茶色へ、そして赤みを帯びた土色へと変化していく。途中、小さな町を幾つか通り過ぎたが、どこも同じような静けさに包まれていた。

午後2時頃、ようやくハイデンの町が見えてきた。小さなガソリンスタンドと雑貨店、そして数軒の家々。それがハイデンの町の全てだった。宿泊先は町で唯一のモーテル、「ハイデン・モーテル」。1970年代に建てられたと思われるシンプルな建物だが、清潔で必要十分な設備が整っていた。

チェックインを済ませた後、まずは町を歩いてみることにした。といっても、メインストリートを端から端まで歩いても10分とかからない。雑貨店兼郵便局では、地元の初老の女性が温かく迎えてくれた。

「どこから来たの?日本?まあ、遠いところから!ウェーブロックは見に行くの?」

彼女の名前はマーガレットさん。この町で生まれ育ち、50年以上ここで暮らしているという。店の奥で淹れてくれた紅茶を飲みながら、彼女はこの町の歴史を語ってくれた。

「昔はもう少し賑やかだったのよ。鉄道の駅もあったし、銀行だってあった。でも時代が変わって、若い人たちは都市部に出て行ってしまった。寂しいけれど、これもオーストラリアの田舎町の宿命ね」

夕方になって、町の外れにある小高い丘に登ってみた。そこから見下ろすハイデンの町は、赤い大地の中にぽつんと浮かぶ小さな緑のオアシスのように見えた。西の空が次第にオレンジ色に染まり始め、地平線の向こうに太陽が沈んでいく。この瞬間の静寂は、都市では決して味わえない特別なものだった。

夕食は、町のパブレストラン「デザート・ローズ」で。地元の牛肉を使ったステーキと、西オーストラリア産のワインを注文した。肉は少し固めだったが、素朴で力強い味わいがあった。店内には地元の人々が数人いて、皆フレンドリーに話しかけてくれた。

「明日はどこに行く予定だい?」農場主のビルさんが尋ねてくれた。「マレット・ロックがおすすめだよ。観光客はあまり行かないけど、ウェーブロックに負けないくらい素晴らしい場所だ」

夜、モーテルの部屋で窓を開けると、満天の星空が広がっていた。都市の光がないこの場所では、天の川までくっきりと見える。南十字星も、はっきりとその姿を現していた。遠くでフクロウの鳴き声が聞こえ、時折コオロギの音が夜の静寂を彩る。

ベッドに横になりながら、今日一日を振り返った。まだ一日目だというのに、すでに時間の流れが違うことを感じていた。ここでは、急ぐ必要がない。ただその瞬間瞬間を味わえばいいのだ。

2日目: 古い大地の記憶を辿る

朝6時、鳥たちのさえずりで目が覚めた。窓の外を見ると、朝日が赤い大地を金色に染めている。モーテルの簡素な朝食 (トーストとコーヒー、フルーツ) を済ませ、レンタカーでマレット・ロックへ向かった。

町から車で20分ほど走ると、突如として巨大な岩の塊が現れた。マレット・ロック。まるで大地から生えてきたような、高さ50メートルほどの一枚岩だった。近づいてみると、その表面には長い年月をかけて刻まれた自然の芸術が施されている。風と雨が作り出した無数の線と陰影が、岩肌に複雑な模様を描いていた。

岩の周りを歩いていると、小さな洞窟のような窪みを発見した。そこには薄っすらと赤い絵の痕跡が残っている。アボリジニの岩絵だった。何千年、いや何万年も前に、この場所で先住民の人々が描いた手形や動物の絵。時間の重みを感じずにはいられなかった。

午前中いっぱいをマレット・ロックで過ごした後、今度はキング・ロックへ向かった。こちらはより大きな岩山で、頂上まで登ることができる。道中は決して楽ではなかったが、頂上から見下ろす360度のパノラマは息を呑むほど美しかった。

どこまでも続く赤い大地。点在する塩湖は太陽の光を受けて白く輝き、遠くには麦畑の緑が見える。そして地平線の向こうまで、一本の道がまっすぐに延びている。この広大さの前では、人間がいかに小さな存在かを思い知らされる。

昼食は岩山の陰で持参したサンドイッチを食べた。風が頬を撫でていく。周りには人影もなく、聞こえるのは風の音と時折響くカラスの鳴き声だけ。この静寂の中で食べる質素な昼食が、なぜかとても美味しく感じられた。

午後は町に戻り、マーガレットさんに教えてもらった地元の農場を訪れた。麦農家のトムさんが快く案内してくれた。見渡す限りの麦畑が風に揺れる様子は、まるで黄金の海のようだった。

「この土地は痩せているように見えるけど、麦には向いているんだ」トムさんが説明してくれた。「雨は少ないけど、その分土がしっかりしている。祖父の代からこの農場をやっているけど、毎年違った表情を見せてくれる」

農場の一角で、トムさんの奥さんのサラさんが淹れてくれた紅茶をいただいた。手作りのスコーンと一緒に。彼らの素朴な温かさに触れ、この土地の人々の生き方について考えさせられた。便利さとは無縁でも、豊かな時間がここにはあった。

夕方、町の外れにあるダム湖を訪れた。人工的に作られた小さな湖だが、夕日を映すその水面は美しかった。湖畔には野鳥たちが集まり、思い思いに羽を休めている。白いペリカンが優雅に水面を滑る姿は、まるで絵画のようだった。

夕食は再び「デザート・ローズ」で。今夜はラム肉のロースト。昨日のステーキとは対照的に、こちらは柔らかく香り高い仕上がりだった。地元産の野菜も新鮮で、シンプルな調理が素材の良さを引き立てていた。

夜、モーテルの前のベンチに座り、再び星空を見上げた。昨夜とは違った角度から見る星座たち。オリオン座が南の空に逆さまに現れている。南半球にいることを改めて実感した瞬間だった。

遠くで何かの動物の鳴き声が聞こえる。ディンゴかもしれない。この大地には、まだ野生の息吹が残っている。文明の灯りから遠く離れたこの場所で、自分という存在が宇宙の一部であることを感じていた。

3日目: 別れの朝と心に残るもの

最後の朝は、特別早く目が覚めた。まだ暗いうちに外に出て、日の出を待った。東の空が次第に明るくなり、やがて太陽が地平線の向こうから顔を出す。赤い大地が朝日を受けて、まるで燃えているように輝いた。

この2日間で、時間に対する感覚が変わったことに気づいた。都市にいるときは常に時計を気にしていたが、ここでは太陽の位置が時を教えてくれる。朝の光、正午の強い日差し、夕暮れの柔らかな光。自然のリズムに合わせて生きることの心地よさを知った。

朝食の後、最後にもう一度町を歩いた。マーガレットさんの店に立ち寄ると、彼女は温かく迎えてくれた。

「もう帰るの?早いわね。でも、きっとまた戻ってくるわよ。この土地を好きになった人は、必ず戻ってくるの」

彼女の言葉には確信があった。実際、この2日間でハイデンという小さな町が、心の中に特別な場所として刻まれていることを感じていた。

お土産に地元産の蜂蜜と手作りのジャムを購入した。どちらもマーガレットさんの友人が作ったものだという。「家に帰っても、この味でここのことを思い出してね」と彼女は微笑んだ。

チェックアウトの時間まで、モーテルの周りを散歩した。小さな庭には、この乾燥した土地に適応した植物たちが静かに花を咲かせている。アカシアの黄色い花、ユーカリの白い花。どれも控えめだが、力強い生命力を感じさせる。

午前11時、ついに出発の時が来た。車に荷物を積み込みながら、この2日間を振り返った。特別な出来事があったわけではない。観光地として有名な場所を巡ったわけでもない。ただ、小さな町で静かに時を過ごしただけ。

それなのに、心の中には深い満足感があった。マーガレットさんやトムさん一家との出会い。赤い大地に刻まれた古い記憶。満天の星空。朝日に輝く麦畑。どれも都市では味わえない、貴重な体験だった。

車のエンジンをかけ、ハイデンの町を後にした。バックミラーに映る小さな町が次第に遠ざかっていく。でも、心の中にはその風景がしっかりと刻まれていた。

パースへ向かう道中、何度も振り返った。赤い大地、青い空、そして地平線の向こうに消えていく一本道。オーストラリアの内陸部の雄大さを改めて感じながら、車は西へと向かった。

空港に着いたのは夕方だった。チェックインカウンターで搭乗手続きを済ませながら、すでにハイデンの町が恋しくなっている自分に気づいた。わずか2泊3日の滞在でも、あの静寂と人々の温かさは、確実に心に根を下ろしていた。

飛行機の窓から見下ろすオーストラリア大陸。どこかにハイデンの町があるはずだが、高度1万メートルからは見つけることはできない。でも、あの小さな町で過ごした時間は、確かに自分の人生の一部になっていた。

最後に

この旅は空想の産物である。実際にハイデンの町を訪れたわけではないし、マーガレットさんやトムさん一家に出会ったわけでもない。モーテルで見た星空も、マレット・ロックから見下ろした風景も、すべて想像の中の出来事だ。

しかし、不思議なことに、これらの体験は確かにあったもののように感じられる。オーストラリアの内陸部の乾いた風、赤い大地の匂い、地元の人々の温かい笑顔。そのすべてが、まるで実際に体験したかのように心に残っている。

旅とは必ずしも物理的な移動を伴うものではないのかもしれない。想像力という翼を使えば、私たちはどこへでも行くことができる。そして時として、空想の旅は現実の旅よりも深く心に刻まれることがある。

ハイデンという小さな町は、地図上では点にすぎない。しかし、想像の中でそこを訪れることで、その土地の本質的な美しさと、そこに暮らす人々の生き方に触れることができた。

現実と空想の境界線は、思っているよりもずっと曖昧なものなのかもしれない。大切なのは、その体験が自分にとってどのような意味を持つかということ。この空想の旅が、いつか現実の旅への第一歩となることを願いながら、ハイデンの町での2泊3日の記憶を、心の奥深くに大切にしまっておこうと思う。

静寂と広大さに包まれたあの小さな町で、私は何か大切なものを見つけたような気がしている。それが何なのか、まだ言葉にはできないけれど、確かにそこにあった。そしてそれは、これからの人生において、きっと大切な指針となってくれるだろう。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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