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  1. たび幻記/

エメラルドの海に抱かれたコルシカの港町 ― フランス・ポルト・ヴェッキオ空想旅行記

空想旅行 ヨーロッパ 西ヨーロッパ フランス
目次

地中海に浮かぶ美しき島の港町

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

ポルト=ヴェッキオは、コルシカ島の南東部に位置する小さな港町だ。フランス本土から約170キロ離れたこの島は、フランス領でありながら独自の言語と文化を持ち、「美の島 (Île de Beauté) 」と呼ばれている。

ポルト=ヴェッキオという名は「古い港」を意味する。かつてジェノヴァ共和国によって築かれた要塞都市であり、旧市街には今も16世紀の城塞が残る。白い石灰岩の城壁と、その上を覆うブーゲンビリアの鮮やかな紫。狭い石畳の路地を歩けば、どこからともなくコルシカ語の会話が聞こえてくる。

この町を訪れる理由は、何よりもその海の美しさにある。サンタ・ジュリア、パロンバッジャといったビーチは、カリブ海を思わせる透明度を誇る。エメラルドグリーンからコバルトブルーへと変化する海は、時間帯によって表情を変え、見る者を飽きさせない。

内陸に目を向ければ、マキと呼ばれる地中海性低木林が広がり、ローズマリー、タイム、ミルテの香りが風に乗って運ばれてくる。この香り高い植物群は、コルシカの豚や羊の飼料となり、島の食文化を支えている。

2泊3日という短い時間では、この島のすべてを知ることはできない。けれども、碧い海と古い石造りの町、そして島の人々の誇り高さに触れるには十分な時間だった。

1日目: 青と白の世界へ

ポルト=ヴェッキオ空港に降り立ったのは、9月の午後2時過ぎだった。バカンスシーズンが終わりかけた頃で、空港はひっそりとしていた。小さなターミナルを出ると、目に飛び込んできたのは乾いた大地と、遠くに見える青い海。空気は乾燥していて、どこか野性的な香りがした。マキの香りだと後で知る。

レンタカーを借り、町の中心部に向かう。道は意外なほど整備されていて、15分ほどで旧市街に到着した。予約していたホテルは、旧市街の高台にある小さな宿。石造りの建物の重厚な扉を開けると、中庭に面した明るいレセプションがあった。マダムは陽に焼けた肌に白髪を束ね、流暢なフランス語で迎えてくれた。部屋の鍵を受け取り、狭い階段を上る。

3階の部屋は簡素だったが清潔で、窓からはポルト=ヴェッキオの入り江が一望できた。無数のヨットが碇泊し、その白い帆が午後の光を反射している。しばらく窓辺に立ち、風景を眺めた。遠くから鐘の音が聞こえてくる。教会の鐘だろうか。時計を見ると3時を少し回ったところだった。

荷物を置き、町を歩くことにした。旧市街の路地は迷路のように入り組んでいる。石畳の坂道を登ったり降りたりしながら、かつての要塞へ向かった。城塞の上からは、町全体が見渡せる。赤い屋根瓦と白い壁の家々、そしてその向こうに広がる海。風が強く、髪が乱れた。城壁の隙間から見える海は、想像以上に青かった。

5時を過ぎた頃、旧市街を降りてマリーナ沿いを歩いた。レストランやカフェが軒を連ね、テラス席では人々がアペリティフを楽しんでいる。まだ夕食には早い時間だが、どこかで軽く食べようと思い、小さなビストロに入った。

メニューはフランス語とコルシカ語で書かれていて、半分ほどしか理解できない。店員に尋ねると、コルシカの郷土料理を勧めてくれた。注文したのは「ブロッチウのベニエ」という、コルシカ産の羊乳チーズを使った揚げ物。運ばれてきた一皿は、外はカリッと、中はクリーミーで、ほのかに羊乳の甘みがあった。白ワインと合わせると、疲れが溶けていくようだった。

窓の外では、夕陽がマリーナを染め始めていた。ヨットのマストが長い影を落とし、海面がオレンジ色に輝く。地中海の夕暮れは、どこか哀愁を帯びている。食事を終え、再び石畳の路地を歩いた。夜になると、旧市街はさらに静かになる。ところどころに灯る街灯が、石壁を柔らかく照らしていた。

ホテルに戻り、シャワーを浴びた。窓を開けると、涼しい夜風が入ってくる。ベッドに横になり、今日一日を反芻した。まだ何も始まっていないような、けれどもすでに何かが始まっているような、不思議な感覚があった。遠くで犬の鳴き声が聞こえる。波の音は聞こえない。それほど高台にあるのだと気づき、目を閉じた。

2日目: 海と山、島の恵みを辿る

朝7時、鳥のさえずりで目が覚めた。カーテンの隙間から差し込む光が、部屋を白く染めている。窓を開けると、朝の空気は驚くほど澄んでいて、マキの香りが混じっていた。昨日とは違う、緑の香り。

ホテルの朝食は中庭のテラスで取った。バスケットに入ったパン、自家製のイチジクジャム、コルシカ産のハチミツ。特に印象的だったのは、栗の花のハチミツだ。琥珀色で、独特の苦みと深い甘みがある。マダムが「マキのハチミツもあるわよ」と勧めてくれたので、それも試した。こちらはより野性的で、ハーブの香りが強い。コーヒーを飲みながら、今日の予定を考えた。

午前中は、町から少し離れたサンタ・ジュリアビーチへ行くことにした。車で20分ほど南へ走ると、道の両側にマキが広がり始める。背の低い潅木が延々と続き、その中を時折、野生の豚が横切ると地元の人が言っていた。カーブを曲がると、突然、目の前に湾が現れた。

サンタ・ジュリアの海は、噂に違わぬ美しさだった。遠浅で透明度が高く、足元の砂粒まではっきり見える。水に入ると、予想以上に温かい。9月でもまだ25度近くあるのだろう。沖に向かって歩いても、膝までしか水位が上がらない場所が続く。振り返ると、白い砂浜と、その背後に広がる緑の丘。風がほとんどなく、水面は鏡のように静かだった。

1時間ほど海で過ごし、ビーチサイドの小屋でサンドイッチを買った。コルシカ産のハム、コッパやロンズを挟んだシンプルなもの。砂浜に腰を下ろし、波の音を聞きながら食べた。塩気の強いハムが、海の後の体に染みる。ミネラルウォーターを飲み干し、もう一度海を見た。午後の光の中で、海はより深い青に変わっていた。

午後2時過ぎ、ビーチを後にして内陸へ向かった。目指すのは、レッカという小さな村。ポルト=ヴェッキオから北西へ30分ほど山道を登った場所にある。道は次第に狭くなり、ヘアピンカーブが続く。窓を開けると、標高が上がるにつれて空気が冷たくなるのがわかった。

レッカの村は、岩山の斜面に張り付くように建っていた。石造りの家々が階段状に並び、路地は人がすれ違うのがやっとの幅しかない。車を村の入口に停め、歩いて中心部へ向かった。村は静まり返っていて、人の気配がほとんどない。シエスタの時間なのだろう。

村の小さな広場に、一軒だけ開いているカフェがあった。テラスに座り、エスプレッソを注文する。運んできたマダムに、この村のことを少し聞いてみた。コルシカ語訛りの強いフランス語で、彼女は言った。「昔はもっと人がいたのよ。今は若い人たちが島を出てしまって」。どこか寂しげな笑顔だった。

カフェを出て、村を歩いた。古い教会、閉まった商店、風化した石壁。けれども廃墟という感じではない。人々は今もここで暮らし、この土地を守っている。そんな静かな誇りのようなものが、村全体から伝わってきた。

夕方、ポルト=ヴェッキオに戻った。昨夜とは違うレストランで夕食を取ることにした。マリーナから少し入った路地にある、地元の人が通うような店。メニューには「シヴェ・ド・サングリエ」という文字があった。イノシシのシチューだ。給仕の男性に尋ねると、「秋だから、ちょうどいい時期だよ」と言う。

運ばれてきた料理は、深い赤ワインで煮込まれた濃厚なシチューだった。イノシシの肉は柔らかく、マキで育った野生の味がする。付け合わせは栗のピューレとポレンタ。この組み合わせがまた絶妙で、ワインが進んだ。地元のコルシカワイン、ニエルッチョ種で作った赤。力強く、土の香りがする。

食事を終えて外に出ると、夜の帳が降りていた。マリーナの灯りが水面に揺れ、遠くからアコーディオンの音色が聞こえてくる。どこかで祭りでもあるのだろうか。音の方へ歩いていくと、小さな広場で数人の若者が演奏していた。コルシカの伝統音楽だという。ポリフォニーと呼ばれる多声の歌声が、夜の空気に溶けていく。

しばらく聴いてから、ホテルへ戻った。今日は海も山も、食も音楽も、たくさんのものに触れた一日だった。部屋に戻り、ベッドに横になる。窓を少し開けておくと、涼しい風が入ってきた。目を閉じると、今日見た海の色、山の村の静けさ、そしてイノシシの味が混ざり合って、夢のように浮かんでは消えた。

3日目: 別れの朝、そして残るもの

最終日の朝は、少し早く目が覚めた。6時過ぎ、空はまだ薄暗い。でも、もう一度あの海を見たくて、身支度を整えた。ホテルを出て、旧市街の坂道を降り、マリーナへ向かう。朝のマリーナは人影もなく、ヨットが静かに揺れているだけだった。

防波堤の先まで歩いた。東の空が少しずつ明るくなり、海の色が変わっていく。灰色から青へ、青から金色へ。太陽が水平線から顔を出す瞬間、海面が一斉に輝いた。息を呑むような美しさだった。こんなに静かで、こんなに力強い朝があるのだと、ただ立ち尽くした。

ホテルに戻り、朝食を取った。今日も中庭のテラスで、同じパンとジャム。けれども昨日とは味わいが違う気がした。もうすぐここを離れると思うと、すべてが愛おしく感じられる。マダムが「また来てね」と言った。「きっと」と答えたが、本当にまた来られるだろうか。

チェックアウトを済ませ、荷物を車に積んだ。飛行機は午後2時発。それまで少し時間があったので、もう一度旧市街を歩くことにした。昨日、一昨日と通った同じ路地。でも朝の光の中では、また違った表情を見せる。石壁に反射する光、路地を抜ける風、遠くで開く商店のシャッター音。

旧港の近くで、小さなパン屋を見つけた。店に入ると、焼きたてのパンの香りが広がっていた。棚には「カニストレッリ」というコルシカの伝統的な焼き菓子が並んでいる。アニス風味のビスケットで、コーヒーに浸して食べるものだと店主が教えてくれた。いくつか買って、お土産にした。

時計を見ると、そろそろ空港へ向かう時間だった。車に乗り込み、ゆっくりと町を後にする。バックミラーに映る旧市街の城塞、白い壁、青い空。すべてが小さくなっていく。空港への道は、来た時と同じはずなのに、違って見えた。見慣れた風景になっていたからかもしれない。

空港に到着し、レンタカーを返却した。チェックインを済ませ、搭乗ゲートへ向かう。小さな空港のカフェで、最後のエスプレッソを飲んだ。苦くて、濃くて、どこか懐かしい味がした。窓の外には、これから乗る小さなプロペラ機が見える。

搭乗が始まった。飛行機に乗り込み、窓際の席に座る。エンジンが始動し、機体が滑走路へ向かう。離陸の瞬間、島が眼下に広がった。ポルト=ヴェッキオの町、青い海、マキの緑。すべてが小さくなり、やがて雲の中に消えていく。

シートに深く座り、目を閉じた。2泊3日は短かった。けれども、この島で見たもの、食べたもの、感じたことは、確かに胸の中に残っている。海の青さ、イノシシの味、ポリフォニーの響き、村の静けさ、朝の光。断片的な記憶が、モザイクのように重なり合っている。

飛行機は高度を上げ、コルシカ島を離れていく。窓の外はもう、ただ青い空だけだった。けれども心の中には、あの碧い海と、風に揺れるマキと、石造りの古い町が、いつまでも残り続けるだろう。それは確かな記憶として、あるいは美しい夢として。

空想でありながら、確かに感じられたこと

ここまで綴ってきたポルト=ヴェッキオでの2泊3日は、実際には訪れていない、空想の旅である。けれども、書きながら感じたのは、旅というものの本質は、必ずしも物理的にその場所を訪れることだけではないのかもしれない、ということだった。

コルシカ島は実在する。ポルト=ヴェッキオという町も、サンタ・ジュリアの海も、レッカの村も、すべて現実に存在している。そこには確かに、地中海の青い海があり、マキの香りがあり、イノシシのシチューがあり、ポリフォニーの歌声がある。この旅行記に描いたものは、想像と資料の中から紡ぎ出したものだが、それでもなお、実在の土地の息吹を感じながら書いた。

空想の旅には、現実の旅にはない自由がある。時間に縛られず、予算を気にせず、天候に左右されず、理想的な瞬間だけを切り取ることができる。けれども同時に、空想の旅には、土を踏みしめる感触も、潮風の冷たさも、迷子になる不安も、予期せぬ出会いもない。

それでも、文章を通じて旅することには、独特の価値があると思う。文字を追いながら、読む人それぞれが、自分だけのポルト=ヴェッキオを心の中に描くことができる。それは書き手の想像した風景とは少し違うかもしれないが、それでいいのだと思う。

いつか、本当にコルシカ島を訪れる日が来るかもしれない。その時、この空想の旅の記憶と、現実の体験が重なり合って、また新しい何かが生まれるだろう。あるいは、一生訪れることなく終わるかもしれない。けれども、この文章を書き、あるいは読んだことで、心の中にはすでに、碧い海と古い港町と、マキの香りが存在している。

それは空想でありながら、確かにあった旅だ。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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