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  1. たび幻記/

白い家と帆船の港町をめぐる旅 ― オマーン・スール空想旅行記

空想旅行 アジア オマーン
目次

はじめに

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

アラビア海の青い水平線が遠くまで続く港町、スール。オマーンの東海岸に位置するこの古い町は、かつて海洋交易で栄えた歴史を今も静かに語り続けている。ダウ船造船の伝統技術が受け継がれ、夜になるとウミガメが産卵のため砂浜に上がってくる。そんな自然と文化が調和した場所への旅を、私は長い間夢見ていた。

スールは首都マスカットから車で約2時間半、内陸の山間部を抜けて海岸線に出たところに現れる。人口約7万人のこぢんまりとした町だが、その歴史の重みは計り知れない。15世紀から19世紀にかけて、インド洋を舞台とした海洋貿易の重要な拠点として栄え、特にダウ船と呼ばれる伝統的な木造船の建造で名を馳せた。今でもスール海事博物館やダウ造船所では、その伝統技術を目にすることができる。

また、スールから約20キロ離れたラス・アル・ジンツは、アラビア半島最東端の岬であり、絶滅危惧種のアオウミガメの重要な産卵地として知られている。6月から9月にかけての産卵シーズンには、多くの研究者や観光客がこの神秘的な光景を目撃しに訪れる。

1日目: 古い港町との出会い

朝6時にマスカットを出発したタクシーは、ジャバル・アル・アクダル山脈の麓を縫うように走り続けた。窓の外に広がるのは、赤茶けた大地と点在するナツメヤシの緑。オマーンの内陸部特有の荒涼とした美しさに、車内で一人静かに見入っていた。やがて山間部を抜けると、突然視界が開け、遠くにアラビア海の青い輝きが見えてきた。午前9時半、ついにスールの町に到着した。

宿泊先のスール・プラザ・ホテルは、町の中心部に位置する白い建物だった。フロントで手続きを済ませ、3階の海側の部屋に案内された。バルコニーに出ると、スール湾が一望できる。静かな港には、白い船体のダウ船が何隻も係留されており、その向こうには伝統的なダウ造船所の建物が見えた。部屋で軽く身支度を整えてから、まずは町の中心部を歩いてみることにした。

午前中の太陽はまだ優しく、海からの風が心地よい。ホテルから歩いて5分ほどのところにあるスール・スークに向かった。アラブ諸国でよく見かける市場とは少し趣が異なり、こぢんまりとしているが品揃えは充実している。香辛料の店では、カルダモンやシナモン、サフランの香りが鼻をくすぐった。店主のアブドゥッラーさんは片言の英語で、オマーン特産のフランキンセンス (乳香) について熱心に説明してくれた。「これは最高級品だよ。昔から王様も使っていたんだ」と誇らしげに語る彼の表情が印象的だった。

昼食は、スークの近くにある地元の食堂「マトバク・アル・バハル」で取った。メニューはアラビア語のみだったが、店主が英語の分かる息子を呼んでくれて、オマーンの代表的な料理を勧めてくれた。マクブースという炊き込みご飯に羊肉と野菜が入った料理と、ハリームという小麦と肉を煮込んだスープのような料理を注文した。マクブースは日本の炊き込みご飯とは全く違う、複雑なスパイスの香りが口の中に広がり、羊肉の旨味がじんわりと染み渡った。ハリームは想像以上にクリーミーで、小麦の素朴な甘みと肉の深いコクが絶妙に調和していた。

午後は、スールの象徴とも言えるダウ造船所を見学した。スール湾の北岸にあるこの造船所では、数百年前から変わらない手法でダウ船が造られている。作業場に入ると、木を削る音や金槌で釘を打つ音が響いていた。職人のひとり、50代後半のサイードさんが作業の手を止めて話しかけてくれた。「この技術は父から教わり、父はその父から教わった」と語る彼の手は、長年の労働で固くなっていたが、木材を撫でる仕草はとても優しかった。

完成したダウ船は美しい曲線を描いており、船首にはカラフルな装飾が施されていた。「この船で漁師たちはインド洋に出て行く。昔は遠くインドやアフリカまで貿易に使われていたんだ」とサイードさんが説明してくれた。伝統と実用性が見事に融合したダウ船を眺めていると、この小さな港町が海洋国家オマーンの重要な一部であることを改めて実感した。

夕方になると、港の雰囲気も変わってくる。漁師たちが一日の漁を終えて戻ってきて、港は活気に満ちてきた。新鮮な魚を積んだ小舟が次々と岸に着き、魚市場では威勢の良い声が飛び交っていた。マグロ、鯛、エビ、イカなど、アラビア海で獲れた海の幸が並ぶ光景は壮観だった。

夜は、ホテルのレストランでオマーン料理のコースを頂いた。前菜は、フムスやタブーレ、そしてオマーン特有のオムツァミという魚のペーストなど。メインディッシュは、マシュウィーという炭火焼きの魚料理を選んだ。その日の朝に獲れたというハマグリ科の魚は、シンプルな調理法ながら素材の旨味が際立っていた。デザートには、バラ水とピスタチオを使ったムハラビーヤという伝統的なプリンのような菓子を頂いた。上品な甘さとバラの香りが口の中に広がり、一日の疲れを優しく癒してくれた。

部屋に戻ってバルコニーに出ると、スール湾に月の光が反射してキラキラと輝いていた。港に係留されたダウ船のシルエットが美しく、静寂に包まれた夜の港町の姿に、心が深く安らいだ。初日から、スールという町の奥深い魅力に触れることができ、明日への期待で胸が高鳴った。

2日目: 海と砂丘の神秘

朝5時に目が覚めた。日の出を見たくて、早めにホテルを出発し、スール湾の南岸にある小高い丘に向かった。朝もやの中を歩いていくと、東の水平線がほんのりと明るくなり始めた。やがて真っ赤な太陽がアラビア海から昇ってきて、海面を金色に染めた。港に停泊するダウ船も朝日に照らされ、まるで絵画のような美しさだった。しばらくその光景に見とれていると、朝の散歩をしているらしい地元の人たちが何人か通りかかった。皆、笑顔で挨拶をしてくれて、この町の人々の温かさを改めて感じた。

ホテルに戻って朝食を取った後、今日のメインイベントであるラス・アル・ジンツへの小旅行に出発した。ホテルのフロントで手配してもらったタクシーで、約30分の道のりだった。途中、内陸側には小さな砂丘が点在し、海側にはマングローブの森が広がっている。運転手のハリードさんが、「ここのマングローブには多くの鳥が住んでいる。フラミンゴも来るんだよ」と教えてくれた。

ラス・アル・ジンツ・タートル・リザーブに到着すると、まずビジターセンターで受付を済ませた。ここは政府が管理する自然保護区で、ウミガメの保護と研究が行われている。案内をしてくれたのは、海洋生物学を専攻しているという若い研究員のファティマさんだった。「アオウミガメは夜に産卵するので、昼間は砂の中の卵を見つけることができます」と説明してくれた。

午前中は、保護区内の散策から始まった。アラビア半島最東端の岬に立つと、360度海に囲まれた感覚になる。ここより東にはインド洋が果てしなく続いている。岬の先端には小さな灯台があり、その周りの岩場では海鳥たちが羽を休めていた。風は強いが、その中に立っていると、地球の端にいるような不思議な感覚に包まれた。

昼食は、保護区内のレストランで簡単なアラブ料理を頂いた。新鮮な魚のグリルと、サラダ、そしてオマーンの伝統的なパンであるホブスが美味しかった。食事をしながらファティマさんが、「今夜は満月に近いので、ウミガメが産卵に来る可能性が高い」と教えてくれた。夜のツアーに参加することを即座に決めた。

午後は、保護区の南側にある砂丘地帯を探索した。ここは小規模ながら美しい砂丘が連なっており、強い日差しで砂の表面がキラキラと輝いている。裸足になって砂丘を歩いてみると、表面は熱いが、少し掘ると冷たい砂が出てきた。砂丘の頂上から見渡すと、一方には青いアラビア海、もう一方には果てしなく続く砂の波が見えた。この対比の美しさに、しばらく言葉を失っていた。

砂丘で過ごしていると、日が傾き始め、砂の色が黄金色からオレンジ色、そして深い赤色へと変化していった。風で砂が舞い上がり、幻想的な模様を描いている。ふと振り返ると、自分の足跡だけが砂丘に残されていた。この広大な自然の中で、自分という存在の小ささと、同時にこの瞬間の貴重さを深く感じた。

夕食は、保護区を離れ、近くの漁村で取ることにした。タクシーで10分ほど走ったところにある小さな村で、漁師の家族が営む民宿のような場所だった。そこで出してもらったのは、その日獲れた魚をココナツミルクとスパイスで煮込んだカレーのような料理だった。辛さの中に甘みがあり、魚の旨味とスパイスの香りが絶妙にマッチしていた。一緒に出されたバスマティライスと食べると、異国情緒溢れる味わいが口いっぱいに広がった。

夜8時、いよいよウミガメ観察ツアーの時間になった。ファティマさんの案内で、懐中電灯を持って静かに浜辺を歩いた。「ウミガメは光を嫌うので、赤いフィルターを通した弱い光しか使えません」と説明された。30分ほど歩いていると、砂浜に大きな跡があった。「これがウミガメの這った跡です」とファティマさんが指差した。

その跡を辿っていくと、砂丘の陰でアオウミガメが産卵をしている最中だった。体長1メートルほどの雌のウミガメが、必死に後ろ足で砂を掘り、そこに卵を産み落としている。その神聖な瞬間を目撃していると、自然の神秘と生命の力強さに深く感動した。産卵を終えたウミガメは、卵の上に砂をかけて隠すと、再び海に向かってゆっくりと歩いて行った。その後ろ姿を見送りながら、何百年、何千年と続いてきたこの営みの尊さを感じていた。

ホテルに戻ったのは夜中の12時を過ぎていた。部屋のバルコニーに出て、今日一日を振り返っていた。朝の日の出から始まり、砂丘での夕日、そして夜のウミガメ観察まで、スールという場所の多面的な魅力を存分に味わうことができた一日だった。アラビア海から吹く夜風に包まれながら、この土地が持つ自然の力強さと美しさに改めて感謝の気持ちを抱いた。

3日目: 心に刻む別れの朝

最終日の朝は、いつもより少し遅く7時に目覚めた。今日の午後にはマスカットに向けて出発しなければならない。短い滞在だったが、既にスールという町に愛着を感じている自分がいた。朝食を済ませた後、最後にもう一度町を歩いてみることにした。

午前中は、まだ訪れていなかったスール海事博物館を見学した。この博物館は、スールの海洋交易の歴史とダウ船造船技術について詳しく展示している。館内に入ると、巨大なダウ船の模型が展示されており、その精巧な作りに驚かされた。展示パネルには、15世紀から19世紀にかけてのスールの黄金時代について詳しく説明されていた。当時、この小さな港町からインド、アフリカ東海岸、そしてペルシア湾諸国まで、多くのダウ船が航海していたという。

特に興味深かったのは、船乗りたちが使っていた航海道具の展示だった。星座を頼りに航海していた時代のコンパスや、手作りの海図、そして船内で使われていた日用品など。それらを見ていると、現代とは比べものにならないほど困難だった当時の航海の様子が目に浮かんだ。博物館の学芸員の方が、「スールの船乗りたちは、季節風を読む技術に長けていました。彼らにとって海は恐れるものではなく、生活の一部だったのです」と説明してくれた。

博物館の2階からは、スール湾とダウ造船所を一望できた。昨日訪れた造船所では、今日も職人たちが黙々と作業を続けている。この変わらぬ風景を見ていると、時間の流れがゆっくりと感じられた。

昼食は、初日に訪れたマトバク・アル・バハルで再び取ることにした。店主が私の顔を覚えていてくれて、「今日は特別な料理を作ってあげよう」と言ってくれた。出てきたのは、シュワという伝統的なオマーン料理だった。これは羊肉を香辛料でマリネした後、バナナの葉で包んで地中で一晩蒸し焼きにする料理だという。肉は驚くほど柔らかく、スパイスの香りが深く染み込んでいた。「これは特別な日にしか作らない料理なんだ」と店主が誇らしげに話してくれた。その心遣いに深く感動し、この町の人々の温かさを改めて感じた。

午後は、荷物をまとめてホテルをチェックアウトした後、最後にスール湾を一周散歩することにした。港では、漁師たちが午後の漁に向けて準備をしていた。網を修理している年配の漁師に話しかけると、「君はどこから来たんだ?」と聞かれた。日本から来たと答えると、「日本は遠い国だな。でも海でつながっているんだ」と微笑んでくれた。その言葉が心に深く響いた。

スール湾の南岸を歩いていると、小さな子供たちが海で遊んでいた。彼らは人懐っこく、片言の英語で話しかけてきた。一人の男の子が、貝殻を拾って私にくれた。「これはスールの海の贈り物だよ」と言って手渡してくれたその貝殻は、美しい螺旋模様をしていた。大切に旅の記念として持ち帰ることにした。

午後3時、タクシーが迎えに来た。ホテルのスタッフや、この数日間で知り合った人々に別れを告げ、スールを後にした。車が町を離れていくとき、振り返ってスール湾を見つめた。そこには変わらず美しいダウ船が浮かんでおり、職人たちの槌音が微かに聞こえてきた。

帰りの道中、タクシーの運転手と色々な話をした。彼もスール出身で、「この町は小さいけれど、心が大きい人たちが住んでいる」と語ってくれた。窓の外には、来るときと同じ赤茶けた大地とナツメヤシの風景が続いていたが、今度はそれらが別れの風景として目に映った。

夕方6時半、マスカット国際空港に到着した。空港でスールでの3日間を振り返っていると、短い滞在だったにも関わらず、この土地に深く愛着を感じている自分がいた。ダウ船造船の技術、ウミガメの産卵、美しい砂丘と海の風景、そして何より温かい人々との出会い。これらすべてが、スールという場所を特別なものにしていた。

搭乗時刻が近づき、最後にもう一度オマーンの大地を見つめた。この国の東の果てにある小さな港町で過ごした時間は、きっと一生忘れることのない思い出になるだろう。貝殻を握りしめながら、いつかまたスールを訪れる日を心に誓った。

最後に

この旅は、私の想像の中だけで繰り広げられた空想の旅だった。しかし、スールという町の魅力、オマーンの文化、アラビア海の美しさ、そして人々の温かさは、調べれば調べるほどリアルに感じられた。実際に存在する場所や文化、伝統について学びながら想像を膨らませることで、まるで本当にその場にいたかのような体験を味わうことができた。

ダウ船造船の音、スパイスの香り、アラビア海の潮風、ウミガメの神秘的な産卵シーン、砂丘に沈む夕日の美しさ。これらすべては私の心の中で確かに体験されたものであり、空想でありながら確かにあったように感じられる旅となった。

旅とは必ずしも物理的な移動だけではない。心と想像力さえあれば、どこへでも行くことができる。そして、その想像の旅もまた、現実の旅と同じように私たちの心を豊かにしてくれるのだと、この空想旅行を通して改めて感じることができた。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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