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  1. たび幻記/

光と波に包まれる環礁の暮らし ― キリバス・タラワ空想旅行記

空想旅行 オセアニア キリバツ
目次

はじめに: 太平洋の真珠

AIが考えた旅行記です。小説としてお楽しみください。

キリバスという国名を口にするたび、舌の上で転がる音の響きが心地よい。33の環礁が点在するこの国の首都タラワは、太平洋の青い海原に浮かぶ細長い陸地だ。最も幅の狭い場所では、わずか数十メートルしかない。片側にはラグーンの穏やかな水面が広がり、もう片側では外洋の波が絶え間なく打ち寄せる。

この土地には、イ・キリバス語で「テ・アバ」と呼ばれる伝統的な集会所があり、コミュニティの中心として機能している。ギルバート諸島として知られていた時代から、ミクロネシアとポリネシアの文化が交錯し、独自の文化を育んできた。ココナッツとパンダナスの木々が島を覆い、人々は何世紀にもわたって海と共に生きてきた。

近年、気候変動による海面上昇で注目を集めることの多い国だが、実際に足を向けてみたいと思ったのは、その静寂と人々の温かさに魅力を感じたからだった。慌ただしい日常から離れ、時間が違う速度で流れる場所で、自分自身と向き合ってみたかった。

1日目: 風の歌声に迎えられて

ナンディ経由でボンリキ国際空港に降り立った瞬間、湿った暖かい空気が頬を撫でた。空港は驚くほど小さく、滑走路の向こうには青い海が見える。入国手続きを済ませ、タクシーでバイリキの宿へ向かう道中、運転手のテマオさんが片言の英語で島の話をしてくれた。

「ここは狭いから、どこに行くのも時間がかからないよ。でも、時間を忘れる場所でもあるんだ」

午前中に到着した私は、まず宿で荷物を置いてから、徒歩で周辺を散策することにした。宿は地元の家庭が営む小さなゲストハウスで、庭にはパパイヤとバナナの木が植えられている。オーナーのネイさんが淹れてくれたココナッツコーヒーを飲みながら、これから始まる旅への期待に胸を躍らせた。

昼近くになると、バイリキの中心部を歩いた。道路は舗装されているものの、至る所にサンゴのかけらが散らばり、赤土が混じっている。商店では中国系の商人が店番をしており、缶詰や米、調味料などの生活用品が所狭しと並んでいる。現地の人々が集まる市場では、新鮮な魚と野菜が売られていた。特に印象的だったのは、巨大なシャコガイの貝殻を器として使って売られている魚の切り身だった。

昼食は市場近くの小さな食堂で取った。「Te kai ni Kiribati」と書かれた看板の店で、地元料理のプレートを注文した。白いご飯の上に、ココナッツミルクで煮込んだ魚の煮物と、パンダナスの実を使ったペーストが載っている。魚は淡白で上品な味わいで、ココナッツの甘みが絶妙に調和していた。店の女性が「マウリ」 (こんにちは) と声をかけてくれ、私も覚えたての挨拶で応えると、嬉しそうに微笑んでくれた。

午後は、ベシオ地区まで足を伸ばした。太平洋戦争の激戦地として知られるこの場所には、今も戦争の痕跡が残っている。錆びた戦車や大砲が点在し、慰霊碑が静かに建っている。ヤシの木陰に座り、波の音を聞きながら、この平和な風景の下に眠る歴史に思いを馳せた。地元のガイドが語ってくれた戦時中の話は重く、それでも人々が困難を乗り越えて今日まで生きてきた強さを感じさせた。

夕方になると、宿の近くのラグーン沿いを散歩した。干潮時で遠浅の水面に夕日が映り、オレンジ色の光が水面を踊っている。地元の子どもたちが裸足で浅瀬を走り回り、小さな魚を手で掴んでは嬉しそうに笑っている。彼らの無邪気な笑顔を見ていると、時間がゆっくりと流れていることを実感した。

夜は宿の庭で、ネイさんの家族と一緒に夕食を取った。炭火で焼いた魚と、タロイモを蒸したもの、そして島で採れた野菜のサラダ。食事中、ネイさんの娘が伝統的な歌を歌ってくれた。イ・キリバス語の美しい旋律が夜空に響き、遠くで波の音がそれに合わせるように聞こえてくる。言葉は分からなくても、その歌声に込められた感情は確かに伝わってきた。

就寝前に外を見上げると、都市部では見ることのできない満天の星空が広がっていた。南十字星がくっきりと輝き、天の川が島の上空を横切っている。波音を子守唄に、深い眠りについた。

2日目: 海とココナッツの恵み

二日目の朝は、鶏の鳴き声で目を覚ました。窓の外には既に明るい陽射しが差し込み、ヤシの葉が風に揺れている音が聞こえる。朝食はシンプルに、パンと紅茶、そして採れたてのパパイヤ。フルーツの甘さが朝の身体に心地よく染み渡った。

午前中は、地元のフィッシャーマンであるトカニさんの船に乗せてもらい、ラグーンでの伝統的な漁を見学した。手作りの木製カヌーは見た目以上に安定しており、トカニさんの巧みな操船で静かな水面を進んでいく。彼が使っているのは、祖父から受け継いだという手編みの網だった。

「魚を取り過ぎてはいけない。必要な分だけを取るんだ」

トカニさんの言葉には、自然との共生に対する深い理解が込められていた。実際に網を引き上げると、手のひらほどの魚が数匹かかっている。彼はそのうち一匹を海に戻し、「まだ小さいから」と説明してくれた。

ラグーンの透明度は驚くほど高く、水深数メートルの海底がはっきりと見える。サンゴ礁に色とりどりの熱帯魚が泳いでおり、まるで巨大な水族館の中にいるようだった。シュノーケルマスクを借りて少し潜ってみると、ナポレオンフィッシュの大きな個体が悠然と泳いでいく姿を見ることができた。

昼前に陸に上がり、トカニさんの家族にお邪魔して、獲れたての魚を使った昼食をご馳走になった。奥さんのマリアさんが作ってくれたのは、魚をココナッツの葉で包んで蒸し焼きにした料理だった。葉を開くと、魚の身がしっとりと仕上がっており、ココナッツの香りが食欲をそそる。付け合わせのタロイモは素朴な甘さで、日本のサトイモに似た食感だった。

午後は、島の伝統工芸を体験させてもらった。マリアさんが教えてくれたのは、パンダナスの葉を使ったマット編みだった。乾燥させた葉を細く裂いて編んでいく作業は思った以上に難しく、指先に集中しながら少しずつ進めていく。マリアさんの手さばきは見事で、あっという間に美しい幾何学模様が現れてくる。

「昔は、どの女性もこれができないと結婚できなかったのよ」

マリアさんの笑い声が響く中、私の不器用な手つきに子どもたちも興味深そうに見つめている。結局、小さなコースター程度のものしか完成しなかったが、それでも自分の手で作り上げた達成感があった。

夕方になると、島の西端にあるレッドビーチを訪れた。名前の通り、サンゴの欠片が混じった砂浜がほんのりと赤みを帯びている。ここは夕日の名所として知られており、地元の人々もよく散歩に訪れる場所だという。

水平線に太陽が近づくにつれ、空の色が刻々と変化していく。オレンジから赤、そして紫へと移ろう空の色彩は、まるで絵の具を水に溶かしたような美しさだった。太陽が水平線に沈む瞬間、一瞬だけ空全体が黄金色に輝き、その後静寂が訪れた。隣に座っていた地元の老人が「Te tai」 (海だ) とつぶやき、深いため息をついた。言葉では表現できない感動を、私たちは静かに共有していた。

夜は宿に戻り、ネイさんと一緒に夕食の準備を手伝った。魚をさばき、野菜を切り、薪で火をおこす。電気が普及していても、調理は今でも薪を使うことが多いという。炎の暖かさを感じながら、都市部では味わえない生活の原点に触れている気がした。

食後は、近所の人々が集まってきて、即興の音楽セッションが始まった。ギターとウクレレ、そして手拍子に合わせて、伝統的な歌や西洋の楽曲が次々と演奏される。私も知っている曲が始まると、拙い英語で一緒に歌った。音楽には言語の壁を越える力があることを、改めて実感した夜だった。

3日目: 別れの朝に響く波の調べ

最終日の朝は、いつもより早く目が覚めた。まだ薄暗い空に金星が輝いているのが見える。宿の庭を静かに歩きながら、この二日間の体験を心の中で整理していた。時間がゆっくりと流れるこの島で、自分自身と向き合う貴重な時間を持つことができた。

朝食後、荷物をまとめて宿をチェックアウトした。ネイさんは自分で編んだというココナッツの繊維で作ったブレスレットをお土産にくれた。

「これを見るたび、キリバスのことを思い出してね」

彼女の温かい笑顔に、思わず目頭が熱くなった。短い滞在だったが、まるで家族のように迎えてくれた人々への感謝の気持ちでいっぱいだった。

午前中は、まだ訪れていなかった国会議事堂の周辺を散策した。独立を記念して建てられた建物は、伝統的なキリバス建築の要素を取り入れたモダンなデザインで、椰子の木立に囲まれて建っている。議事堂前の広場では、地元の学生たちが民族舞踊の練習をしていた。カラフルな衣装を身にまとい、太鼓のリズムに合わせて踊る姿は生き生きとしており、この国の未来への希望を感じさせた。

昼食は、空港近くの食堂で最後のキリバス料理を味わった。ココナッツクラブという、ヤシガニをココナッツミルクで煮込んだ郷土料理だった。濃厚でクリーミーな味わいは、日本では味わえない独特の美味しさだった。店の主人が「また来てください」と片言の日本語で声をかけてくれ、この島で出会った人々の優しさを改めて感じた。

午後の便で島を発つため、早めに空港へ向かった。小さな空港の待合室で搭乗を待ちながら、窓の外に広がるタラワの風景を眺めていた。青い海に囲まれた細長い陸地、点在するヤシの木、そして行き交う人々。この光景を心に焼き付けておきたいと思った。

搭乗時間が近づくと、トカニさんとマリアさん一家が見送りに来てくれた。子どもたちは手作りの花飾りを首にかけてくれ、「カム・バック」と英語で言ってくれた。言葉がうまく通じなくても、心は確実に通じ合っていることを実感した。

機内から見下ろすタラワは、まるで青い絨毯に刺繍された細い糸のようだった。高度が上がっていくにつれて、島はどんどん小さくなっていく。しかし、その小さな島で体験した出来事や出会った人々との思い出は、心の中で大きく輝いていた。

機内では、持参した日記に今回の旅のことを書き込んだ。文字にすることで、記憶がより鮮明になっていく気がした。窓の外には夕日に染まった雲海が広がり、キリバスから持ち帰った思い出と共に、日本への帰路についた。

最後に: 空想でありながら確かに感じられたこと

この旅は空想の中の体験だったが、キリバスという国の存在と、そこで暮らす人々の営みは確かに現実のものだ。実際に足を運んだことはなくても、資料や写真、現地の人々の声を通じて知ったこの国の魅力は、想像の中で豊かな体験として結実した。

太平洋の小さな島国で感じた時間の流れの違い、自然との共生の大切さ、そして言葉や文化の違いを越えた人と人とのつながり。これらは空想の旅であっても、私たちの心に確かな感動をもたらしてくれる。

キリバスが直面している気候変動の問題は深刻だが、そこに暮らす人々の笑顔と希望を忘れてはいけない。この空想の旅を通じて、地球の反対側にある小さな島国への関心と親しみを抱いてもらえたなら、それは何よりも嬉しいことだ。

いつの日か、この空想が現実の旅となることを願いながら、キリバスの人々に「マウリ ンガカムウィ」 (ありがとう) という感謝の気持ちを込めて、この旅行記を終えたい。

hoinu
著者
hoinu
旅行、技術、日常の観察を中心に、学びや記録として文章を残しています。日々の気づきや関心ごとを、自分の視点で丁寧に言葉を選びながら綴っています。

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