はじめに: 幸福の国の首都、ティンプーへ
「国民総幸福量 (GNH) 」という独自の指標を掲げるヒマラヤの王国、ブータン。その首都ティンプー (Thimphu) は、標高2,300mに位置しながらも、国の政治・経済・文化の中心として静かに息づいている。
ネオンもない、信号もない。けれどそこには、人と人のつながり、祈りの空気、そして山々に守られた精神の豊かさがある。
今回は、この世界でもっとも“静かな首都”をAIの想像力で2泊3日旅してみた。祈りの音、僧侶の笑顔、石畳に咲く花までを、できる限り具体的に描いていきたい。
1日目: パロからティンプーへ、祈りの国の玄関口
午前8時、パロ国際空港に着陸。ヒマラヤ山脈に囲まれた狭い谷に滑り込むような着陸は、世界有数の難関着陸として知られるが、それだけに地面に足がついた瞬間の安堵感は格別だ。
入国審査を済ませて外に出ると、空気が澄み切っている。空は青く、周囲を囲む緑の山々には薄く雲がかかっている。
ティンプーへは車で約1時間。ドライバーは伝統衣装ゴ (Gho) を着た穏やかな男性で、途中の景色や文化について丁寧に説明してくれる。
「ほら、あれがチュズム (三つの川の合流点) 。神聖な場所なんですよ」
山道を走り抜け、午前10時過ぎにティンプー市内に入る。街にはビルがない。屋根には伝統建築の装飾が施され、道端には僧侶と学生が並んで歩いている。のんびりとした歩調に、旅人の心も自然とゆるんでいく。
ホテルは市内中心部の「ナムゲル・ヘリテージ・ホテル」。木造の柱と織物に囲まれたロビーに、チベット風のお香の香りが漂っている。
昼食はホテル内のレストランで「エマ・ダツィ (唐辛子とチーズの煮込み) 」を試す。辛さとコクがクセになる味。赤米とダル (レンズ豆スープ) も添えられている。
午後は市内を散策。「メモリアル・チョルテン (仏塔) 」へ。白く輝くストゥーパには、回廊を時計回りに歩く信者たち。マニ車 (経文の書かれた円筒) を回しながら歩く老人の目は、まっすぐで優しい。
夕方、「ティンプー・タルチョック・マーケット」へ。野菜や手作りの布、薬草、ラキ (チーズキャンディ) が並び、観光客向けでない“日常の香り”が立ちのぼる。
夜は「ザ・ゾ・レストラン」でブータン風餃子「モモ」とスパイス入りの鶏肉炒め。地元のビール「Red Panda」を片手に、夜風に吹かれる。
部屋に戻ると、木の窓枠の向こうに星がひとつ、またひとつ。
2日目: 僧院と丘の上の巨像、ティンプーの静けさ
朝6時、木製の窓の隙間から差し込む光で目を覚ます。ホテルの朝食はバター茶、トウモロコシの粥「ケセ」、蒸しパン。
午前中は「タシチョ・ゾン (王宮と僧院) 」へ。白壁の回廊を抜けると、赤と金で彩られた本堂が現れる。僧侶たちが読経する声が空気を震わせ、観音菩薩像が静かに見下ろしている。
内部の装飾は極彩色で、天井には曼荼羅、壁には神々の姿。写真撮影は禁止だが、それがかえって“心にだけ刻む”という感覚を強めてくれる。
午後は市街を見下ろす丘にある「ブッダ・ポイント (クエンセル・ポダン) 」へ。高さ51.5mの金色のブッダ像が空を背に座っている。足元の展望台からは、ティンプーの街が箱庭のように広がる。風が抜け、無数のタルチョ (祈祷旗) がはためく音が心地よい。
夕方は「ゾリゲル・トレイル」を1時間ほどハイキング。松林を抜け、ところどころにヤクや猿の姿がある。すれ違う人はみな笑顔で「クズザンポラ〜 (こんにちは) 」と声をかけてくれる。
夜はホームステイ先の家庭でブータンの家庭料理を体験。豆腐のような“パニール”と野菜のカレー、青唐辛子のピクルス、自家製ラキヤを囲みながら、ホストの家族と英語と身振り手振りで会話。
「ティンプーは何もない。でも、心はある」と笑った父親の言葉が忘れられない。
3日目: 祈りの朝と別れの時間
最終日。ホテルの裏にある「チェリ・ゴンパ (丘の上の僧院) 」へ朝のお参りに出かける。
石段を30分ほど登ると、霧の中に古い僧院が姿を現す。僧侶たちはすでに朝の読経を始めており、旅人を咎めることなく迎えてくれる。
本堂の木の床に座り、目を閉じる。言葉は通じなくとも、響き合うような静けさがあった。
下山後、カフェで最後のティンプー朝食。スパイス入りのチャイと焼き立てのバタークッキー。通りでは学校に向かう子どもたちが、カラフルな制服姿で笑っている。
ホテルでチェックアウトを済ませ、再びパロ空港へ。
帰り道、車窓から見える山と谷、白い仏塔、祈祷旗。すべてが“手放しがたいやさしさ”を湛えていた。
空想なのに、確かにあった旅
この旅はすべてAIによる空想旅行である。だが、あの祈りの音、辛いけれど温かい料理、タルチョの揺れる音──それらは、どこか自分の中の静けさと共鳴する。
ティンプーには、観光名所以上の“呼吸”があった。またいつか、心が疲れたときに戻ってきたい。そう思わせる旅だった。
「AIで行く空想旅行」シリーズでは、想像の翼で世界の静けさ、美しさ、人の優しさを伝えていきます。次回も、どうぞお楽しみに。