ジョージア文字は、英語と共通する文字が1つもない。33文字すべてが完全に未知の形だ。ハングルキリル文字には英語と共通する文字や似た文字があったが、ジョージア文字にはその足がかりがない。

ただし、読み方の仕組みは非常にシンプル。1文字が1音に対応し、例外がない。大文字と小文字の区別もない。サイレントレターもない。形さえ覚えれば、確実に読める。

題材はジョージアのマクドナルド。トビリシを中心に営業しており、メニュー名はほぼ英語由来の外来語。ただしジョージア語特有のルールが一つある。名詞の末尾に「-ი」(i)がつく。ビッグマックは「ბიგ მაკი」(ビグ マキ)になる。この語尾を知っておけば、以降のメニューで戸惑わない。

なお、この記事は旅行者が現地で看板やメニューを読める程度を目指している。正確な発音を学びたい場合は教科書等を参照してほしい。

ბიგ მაკი

ビッグマック。6文字のうち5文字が初出。ここで母音3つと子音2つを覚える。

「ბ」は「b」「ი」は「i」「გ」は「g」

ბ(b) + ი(i) + გ(g) = ビグ。

「მ」は「m」「ა」は「a」

მ(m) + ა(a) + კ(k) + ი(i) = マキ。末尾の「ი」が語尾。英語のBig Macに「i」がついた形だ。

「კ」は後で詳しく説明するが、ここでは「k」と読めばいい。

ここまでの文字

b
g
m
k
a
i

ჩიზბურგერი

チーズバーガー。新しい文字が5つ。

「ჩ」は「ch」「ზ」は「z」

ჩ(ch) + ი(i) + ზ(z) = チズ → チーズ。

「უ」は「u」「რ」は「r」「ე」は「e」

ბ(b) + უ(u) + რ(r) + გ(g) + ე(e) + რ(r) + ი(i) = ブルゲリ → バーガー。

კოკა-კოლა

コカコーラ。最後の母音 「ო」は「o」 が登場。

新しい子音は 「ლ」で「l」

კოკა の部分は კ(k) + ო(o) + კ(k) + ა(a) = コカ。კოლა は კ(k) + ო(o) + ლ(l) + ა(a) = コラ。

これで母音が5つ揃った。ジョージア語の母音は5つだけ。日本語の「あいうえお」と同じ数だ。

母音(これで全部)

a
e
i
o
u

ჰამბურგერი

ハンバーガー。新しい文字は1つ。

「ჰ」は「h」。ジョージア文字の最後の文字(33番目)。

ჰ(h) + ა(a) + მ(m) + ბ(b) + უ(u) + რ(r) + გ(g) + ე(e) + რ(r) + ი(i) = ハムブルゲリ → ハンバーガー。

ნაგეტსი

ナゲッツ。新しい文字が3つ。

「ნ」は「n」「ტ」は「t」「ს」は「s」

ნ(n) + ა(a) + გ(g) + ე(e) + ტ(t) + ს(s) + ი(i) = ナゲツィ → ナゲッツ。

ფანტა と სპრაიტი — 同じ音に2つの文字

ドリンクメニューから2品。ここでジョージア文字の重要な特徴が見える。

ファンタは ფ(p) + ა(a) + ნ(n) + თ(t) + ა(a) = パンタ。新しい文字は 「ფ」(p)「თ」(t)

スプライトは ს(s) + პ(p) + რ(r) + ა(a) + ი(i) + ტ(t) + ი(i) = スプライティ。新しい文字は 「პ」(p)

ფ も პ も「p」。თ も ტ も「t」。なぜ同じ音に2つの文字があるのか。

ジョージア語には同じ音に対して2〜3種類の文字がある。「3段階システム」と呼ばれ、息を強く出す版(帯気音)、喉を詰める版(放出音)、濁る版(有声音)の3つ。t音なら თ(帯気)、ტ(放出)、დ(有声)。p音なら ფ(帯気)、პ(放出)、ბ(有声)。k, ts, ch にも同じパターンがある。

旅行者レベルではどれも同じ「タ行」「パ行」で読めば意味は理解できる。詳しい一覧は記事末尾にまとめた。

შოკოლადი と ვეჯი ბურგერი

チョコレートとヴェジバーガー。4つの新しい文字を一気に拾う。

「შ」は「sh」「დ」は「d」。 შ(sh) + ო(o) + კ(k) + ო(o) + ლ(l) + ა(a) + დ(d) + ი(i) = ショコラディ → チョコレート。語末の -ი を除くと「ショコラド」で、フランス語のchocolatに近い。

「ვ」は「v」「ჯ」は「j」。 ვ(v) + ე(e) + ჯ(j) + ი(i) = ヴェジ。菜食バーガーだ。

ここまでで外来語メニューから22文字を覚えた。კაპუჩინო(カプチーノ)や ფრი(フライ)も既出の文字だけで読める。試してみてほしい。残り11文字はジョージア語固有の単語から拾う。

ジョージア語の壁

ここからはメニューページ上のジョージア語固有の単語から文字を拾う。キリル文字編と同じく、読めても意味はすぐにはわからない。

ქათმი

チキン。メニューの商品説明に頻出する。

「ქ」は「k」

კ も「k」だった。ქ は息を強く出す「k」、კ は喉を詰める「k」、გ は有声の「g」。3段階システムのk系が揃った。

ქ(k) + ა(a) + თ(t) + მ(m) + ი(i) = カトミ → チキン。これはジョージア語固有の単語なので、音がわかっても意味は推測できない。

ცივი სასმელები

「冷たいドリンク」。メニューのカテゴリ名。

「ც」は「ts」

ც(ts) + ი(i) + ვ(v) + ი(i) = ツィヴィ → 冷たい。

ცხარე მაკქრისფი

「スパイシーマッククリスピー」。

「ხ」は「kh」。喉の奥から出す音。キリル文字のХと同じ音だ。

ც(ts) + ხ(kh) + ა(a) + რ(r) + ე(e) = ツハレ → スパイシー。

წყალი

水。

「წ」は「ts’」。ც の放出音版。 「ყ」は「q’」。喉の奥で詰めて出す音。英語にも日本語にもない。

წ(ts’) + ყ(q’) + ა(a) + ლ(l) + ი(i) = ツカリ → 水。1つの単語にジョージア語特有の文字が2つ入っていて効率がいい。

ალუბლის ღვეზელი

チェリーパイ。

「ღ」は「gh」。喉の奥で出す濁った音。

ღ(gh) + ვ(v) + ე(e) + ზ(z) + ე(e) + ლ(l) + ი(i) = グヴェゼリ → パイ。

მჟავე კიტრი

ピクルス。バーガーの商品説明に出てくる。

「ჟ」は「zh」。キリル文字のЖと同じ音。

მ(m) + ჟ(zh) + ა(a) + ვ(v) + ე(e) = ムジャヴェ → 酸っぱい。

ჭიქა

カップ。Friends Mealの説明文に「კერამიკული ჭიქით」(セラミックカップ付き)と出てくる。

「ჭ」は「ch’」。ჩ の放出音版。

ჭ(ch’) + ი(i) + ქ(k) + ა(a) = チカ → カップ。

メニューに出てこない1文字

33文字のうち、メニューでは拾えなかった文字が1つだけある。

「ძ」は「dz」。ц(ts)の有声版で、ts系の3段階の最後のピース。街中では「ძველი」(ズヴェリ=古い)などの単語で見かける。旧市街の看板でよく出てくる文字だ。

メニューに出てこない文字

dz

子音の3段階システム

ジョージア語の子音には、同じ音に対して3種類の文字がある。記事中でファンタ(t系)やスプライト(p系)の箇所で個別に触れたが、ここで全体像を整理する。

有声帯気放出
k系გ (g)ქ (k)კ (k')
t系დ (d)თ (t)ტ (t')
p系ბ (b)ფ (p)პ (p')
ts系ძ (dz)ც (ts)წ (ts')
ch系ჯ (j)ჩ (ch)ჭ (ch')

旅行者レベルでは、有声音と帯気音の違いだけ意識すればいい。放出音は帯気音と同じに読んでも通じる。

総まとめ

全33文字の一覧。

母音(5文字)

a
e
i
o
u

子音 — 3段階システム(15文字)

g
k
k'
d
t
t'
b
p
p'
dz
ts
ts'
j
ch
ch'

子音 — 1対1(13文字)

v
z
l
m
n
r
s
sh
zh
gh
kh
q'
h

33文字すべてが未知の形から始まったが、母音はたったの5つ、子音の15文字は5つの音の3バリエーション、残りの13文字は1音1文字。構造を知ると、33文字は見た目ほど多くない。

この記事を読み終えた今なら、トビリシのメトロの駅名が読めるはずだ。რუსთაველი(ルスタヴェリ → ルスタヴェリ通り)、ავლაბარი(アヴラバリ → 至聖三者大聖堂の最寄り駅)、თავისუფლების მოედანი(タヴィスプレビス モエダニ → 自由広場)。意味はわからなくても、音が読めればGoogle Mapsと照合できる。

ジョージア文字は世界で最も古い文字体系の一つで、2016年にユネスコの無形文化遺産に登録されている。トビリシの街を歩くと、この丸みのある独特な文字が看板、教会、ワインのラベル、あらゆる場所に溢れている。読めるようになると、街の景色が変わる。