前回までに子音23文字と基本母音を覚え、ガパオライスが読めるようになった。最終回では「なぜタイ語には同じ音に複数の文字があるのか」を解き明かしながら、残りの子音と母音をカバーする。
なぜ44文字もあるのか
前回までに ก と ค が両方「k」、ส と ซ が両方「s」であることを見てきた。なぜ同じ音に2つの文字が必要なのか。
答えはサンスクリット語とパーリ語にある。タイ文字は13世紀にこれらの古代インドの言語の表記体系をもとに作られた。サンスクリット語では区別していた音(有気音と無気音、歯音と反り舌音など)を、タイ語ではもう区別しない。しかし文字だけが残った。
英語で例えると、knightのkやpsychologyのpを発音しないのに綴りに残しているのと同じ構造だ。
旅行者にとっての実用的な意味はシンプル。前回までに覚えた23文字で21音すべてをカバーしている。残りの21文字は、すでに知っている音の「別の書き方」にすぎない。
重複文字の全体像
21音それぞれに何文字が割り当てられているかを一覧にする。太字が前回までに覚えた代表文字。
| 音 | 代表文字 | 重複文字 | 合計 |
|---|---|---|---|
| k | ก | — | 1 |
| kh | ข, ค | ฃ(廃), ฅ(廃), ฆ | 5 |
| ng | ง | — | 1 |
| j | จ | — | 1 |
| ch | ช | ฉ, ฌ | 3 |
| s | ส, ซ | ศ, ษ | 4 |
| y | ย | ญ | 2 |
| d | ด | ฎ | 2 |
| t | ต | ฏ | 2 |
| th | ท | ฐ, ฑ, ฒ, ถ, ธ | 6 |
| n | น | ณ | 2 |
| b | บ | — | 1 |
| p | ป | — | 1 |
| ph | พ | ผ, ภ | 3 |
| f | ฟ | ฝ | 2 |
| m | ม | — | 1 |
| r | ร | — | 1 |
| l | ล | ฬ | 2 |
| w | ว | — | 1 |
| h | ห | ฮ | 2 |
| ʔ | อ | — | 1 |
44文字中、2文字は廃字(ฃ, ฅ)で実質42文字。そのうち23文字を前回までに覚えた。残りの19文字は上の表の「重複文字」欄にあるもの。
最も重複が多い音:th(6文字)
ท はすでに覚えた。残りの5文字はすべて同じ「th」の音。
th の6文字
サンスクリット語では歯音・反り舌音・有気・無気の組み合わせで6種類の音を区別していた。現代タイ語ではすべて同じ「th」。文字だけが6つ残っている。
旅行者レベルではどの文字を見ても「th」と読めばいい。どの ท を使うかは単語ごとに決まっているので、読む分には問題にならない。
その他の重複文字
残りの重複文字も、同じ考え方で対処できる。
s の4文字
ph の3文字
ch の3文字
2文字ずつの組
重複文字をメニューで確認する
一覧だけでは実感が湧かないので、実際のメニューで重複文字を読んでみる。
แฮมเบอร์เกอร์
ハンバーガー。前回までに覚えた แฮมเบอร์เกอร์ の中に、実は重複文字が隠れている。
「ฮ」は「h」。ห の重複文字。แฮ = hae = ヘ。
แฮมเบอร์เกอร์ = ヘムボーゴー → ハンバーガー。เบอร์เกอร์ の部分は第2回で覚えた。ฮ が ห と同じ「h」だと知っていれば、新しく覚えることは何もない。
ผัก
野菜。サラダやバーガーの商品説明に出てくる。
「ผ」は「ph」。พ の重複文字。
ผัก = phak = パック → 野菜。ผ を見て「知らない文字だ」と思っても、พ と同じ「ph」と知っていれば読める。
ถั่ว
豆・ピーナッツ。デザートやサイドメニューの説明に出てくることがある。
「ถ」は「th」。ท の重複文字(th の6文字のうちの1つ)。
ถั่ว = thua = トゥア → 豆。ถ を ท と同じに読めばいい。
重複文字は見た目が違うだけで、音は代表文字と同じ。メニューで見慣れない文字に出会ったら、この記事の一覧表で代表文字を確認すればいい。
子音の3クラス
タイ語の教科書には必ず「高子音」「中子音」「低子音」の分類が出てくる。これは声調を決定するためのルールに使う。
旅行者レベルでは声調を無視しても文脈で通じるため、3クラスの暗記は不要。ただし存在だけ知っておくと、教科書を読む際の助けになる。
| クラス | 文字 |
|---|---|
| 高子音(11文字) | ข, ฃ, ฉ, ฐ, ถ, ผ, ฝ, ศ, ษ, ส, ห |
| 中子音(9文字) | ก, จ, ฎ, ฏ, ด, ต, บ, ป, อ |
| 低子音(24文字) | ค, ฅ, ฆ, ง, ช, ซ, ฌ, ญ, ฑ, ฒ, ณ, ท, ธ, น, พ, ฟ, ภ, ม, ย, ร, ล, ว, ฬ, ฮ |
高子音に重複文字が集中しているのは、サンスクリット由来の文字がこのクラスに分類されることが多いため。
残りの母音
前回までに扱わなかった母音をまとめる。
短母音・長母音のペア(未出分)
未出の母音ペア
แ-ะ は แ- の短い版。เ-ะ は เ- の短い版。โ-ะ は โ- の短い版。前回までに長い版を覚えているので、パターンで読める。-ะ がつくと短くなる、と覚えればいい。
-ึ と -ื は英語にも日本語にもない「ue」の音。口を「ウ」の形にして「イ」と言う。出現頻度はそれほど高くない。
特殊な母音
特殊な母音
เ-ีย, เ-ือ, -ัว は3つの母音が組み合わさった複合形。เ-ีย は เ- + -ี + ย で「ia」。
ใ- は ไ- と全く同じ「ai」の音。なぜ2つあるのかは、これもサンスクリット由来の歴史的理由。ใ- を使う単語は20語ほどに限られている。
-ำ は子音と母音が合体した特殊な形で「am」。ไทย(タイ)の次によく見るタイ文字 น้ำ(ナーム=水)に使われている。
総まとめ
3回の連載で扱ったタイ文字の全体像。
子音 — 21音の代表文字
子音 — 重複文字(代表文字と同じ音)
母音 — 後ろに書く
母音 — 上に書く
母音 — 下に書く
母音 — 前に書く(後に読む)
母音 — 複合(子音を挟む)
記号
子音44文字のうち、廃字2文字を除く42文字。実際の音は21種類。代表の23文字を覚えていれば、残りは「同じ音の別表記」として対応表を見ながら読める。
タイ文字は量が多いが、仕組みを整理すると構造が見えてくる。母音は「前に書いて後に読む」パターンを押さえれば応用が利く。子音は代表文字23個で全音をカバーできる。声調は旅行者レベルでは無視していい。
バンコクのBTSやMRTの駅名を見てほしい。สยาม(サヤーム=サイアム)、อโศก(アソーク)。อโศก の ศ はこの記事で覚えた ส の重複文字で、同じ「s」の音。代表文字を知っていれば、重複文字が出てきても読める。この記事を読み終えた今なら、バンコクの駅名を音に変換できるはずだ。